未成年犯罪を罰することの難しさを描く
臨場感たっぷりの法廷シーンにも注目
この国では、未成年犯罪が起きる度に、少年法の是非が議論されては忘れ去られていく。改正少年法により、成人年齢が18歳になったところで、問題の解決にはならない。それは子供でも分かることだ。「実名報道の解禁」などに至っては、“今さら感”が強く、事件がある度に、ネット上に“特定屋”が現れ、真偽不明の犯人情報であふれかえるのが現実だ。
「私刑」という言葉もある。意外ではあるが、日本において、私刑を禁ずる法律ができたのは明治時代。江戸時代までは、村八分や座敷牢への監禁などは、幕府も黙認していたとされている。そうした歴史を踏まえれば、日本人のDNAには、私刑に対する寛容さが備わっているのではないかとさえ思える。
アンシュル・チョウハン監督は、エストニアの「タリン・ブラックナイト映画祭」でグランプリ、北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ」で第1回大林賞を受賞したインド出身日本在住の気鋭監督だ。
本作では、彼の従来の作風を一変させ、重厚でリアリスティックな語り口による本格的な裁判劇を撮り上げた。法廷における裁判官、弁護士、検察官、証人のやりとりを臨場感たっぷりに描出し、スリリングな展開と、登場人物たちが抱く不安、迷い、痛みをシンクロさせた濃密な世界観を作り上げている。