「“服をまとう”とはどういうことなのか」ドキュメンタリー映画『うつろいの時をまとう』監督・三宅流、独占インタビュー
日本の美意識をコンセプトに独自のスタイルを発信し続けている服飾ブランド「matohu」の活動を記録した映画『うつろいの時をまとう』は、日常に潜む美や豊かさを再発見させてくれる珠玉のドキュメンタリー映画だ。今回は、監督を務めた三宅流さんのインタビューをお届け。本作に込めた思いや、製作プロセスについてじっくりお話を伺った。
【三宅流監督 プロフィール】
映画監督。1974年生まれ。多摩美術大学卒業。在学中より身体性を追求した実験映画を制作、国内外の映画祭に参加。2005年頃からドキュメンタリー映画制作が中心になり、伝統芸能とそれが息づくコミュニティ、表現におけるコミュニケーションと身体のあり様を描き続ける。主な作品は『白日』(2003)、『面打』(2006)、『朱鷺島 創作能−「トキ」の誕生』(2007)、『究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年』(− 2008)、『躍る旅人−能楽師・津村禮次郎の肖像』(2015)など。
「“本物”であることの凄みを感じた」
服飾ブランド・matohuとの出会いを語る
―――服飾ブランドmatohu と出会ったきっかけを教えてください。
「前々作『躍る旅人 能楽師・津村禮次郎の肖像』(以下、『躍る旅人』)がきっかけでした。能楽師の津村禮次郎さんが、自らの古希を記念する能公演で、伝統的な衣装の中に合わせてmatohuの衣装を身にまとっていたのです。
matohuの衣装からは、“ジャポニズム”や“クールジャパン”といった言葉で括られるような“表面的な和”ではなく、日本文化の本質的な深さのようなものを感じました。
日本の文化は、中国大陸や朝鮮半島、あるいは西洋からの影響を受けながら独自に進化してきました。“純粋な和”といった凝り固まったものではなく、開かれているけど深みのあるものがmatohuの衣装にはあります。
長い歴史を持つ能衣装に現代的な服をスタイリングする試みは極めて困難ですが、それを見事に成功させているのを見て、“本物”であることの凄みを感じました」
―――それからどのような経緯でmatohu のドキュメンタリー映画を制作する運びになったのでしょうか?
「『躍る旅人」の撮影を通じてmatohuを認識し、ホームページなどで活動内容を紐解いていくと、彼らの服作りには“言葉”が重要な役割を果たしていることがわかりました。
それから堀畑裕之さんの著書『言葉の服』を読み、言葉のフォルムや、言葉の持つ世界や広がりへの関心のあり方に、自分と近いものを感じました。
風景や物から得たインスピレーションを言葉に変え、最終的に服という身近なプロダクトに落とし込む。概念としての言葉を生活に根ざしたものと密接に結びつける。matohuが体現する言葉と制作物との関係に惹かれたのです」
―――制作に取り掛かるにあたり、matohuのデザイナーであり、本作の「主人公」である堀畑裕之さん、関口真希子さんとはどのようなやり取りをされましたか?
「本作の撮影は、始めから公開の目途が立っていたわけではなく、映画になるのかテレビ番組になるのか未定の状態からスタートしました。
お2人に企画の相談をすると、『わかりました。追いかけていただく分には構いません』と快諾してもらいましたが、最初は半信半疑だったと思います。
撮影が始まるとはいえ、彼らからしたら、半年に一度、シーズンごとに新しい服を作ることには変わりません。こちらも撮影プランを最初からは厳密に固めずに、『まずは1シーズン追ってみよう』という感じで撮影に取り掛かりました」