生と死のあわいを漂う
坂口健太郎のニュートラルな佇まい
まずは、本作のあらすじを紹介しよう。
坂口演じる主人公・未山は、目の前に存在しないはずの“誰かの想い”が見えるという特殊能力を持つ青年。彼は、この不思議な力で心身の不調に悩まされる人々を癒やす仕事をしながら、恋人の看護師・詩織(市川実日子)とその娘・美々(磯村アメリ)と穏やかに暮らしている。
そんな未山は、ある日、自分の隣に“謎の男”がいることに気づく。男から並々ならぬ想いを感じた未山。彼は、この想いをたどり、やがて男本人に会うことになる。そして、男は、未山とかつての恋人・莉子(齋藤飛鳥)との間に起きていた“ある事件”の顛末について語りはじめる―。
本作の注目は、なんといっても主人公・坂口の佇まいだろう。『シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸』(2014年)でのデビュー以来、さまざまな役柄で私たちを魅了してきた坂口だが、本作の未山はあまり多くを語らない。しかし、彼の生と死の間を漂うようなニュートラルな佇まいが、本作の世界観に説得力を与えている。
他の役者の演技も負けてはいない。莉子役の齋藤も、坂口同様、ニュートラルな佇まいで本作の世界観を下支えしている。そして、そんな二人とは対照的に、市川と磯村は、あくまで自然体の演技で、物語を牽引している。
また、フォトジェニックな映像も本作の魅力。特に、未山たちが住む家や、舞台となった長野の自然は、柔らかな光に包まれ、〝人間以外の何か”の手触りと、風景と登場人物をあくまで等価に映したいという監督の確固たる意志を感じさせる。