ウルトラミラクルラブストーリー 脚本の魅力
脚本も担当した横浜聡子は、観客を置いてけぼりにするような、奇想天外な世界観を構築している。首のない男の突然の登場、農薬を浴びて元気になる主人公、瓶から脳みそを素手で取り出し野生の熊に投げつけるヒロインなど、一度観たら忘れられない、強烈なエピソードが満載だ。
主人公の陽人は脳に障害を抱えており、彼の奔放な振る舞いが障害に起因していることが、会話の端々でほのめかされる。しかし、作り手はそんな陽人を可哀想な存在として描くのではなく、差別もしなければ美化もせず、あるがままの存在として描写しており、その清々しいありように好感が持てる。
安易な共感を寄せつけない、突飛なキャラクターである陽人だが、町子と出会うことでとある悩みを抱えることになる。陽人は、自身の“普通じゃない”振る舞いが、町子から嫌われる原因になっていると思いこみ、農薬摂取という“ドーピング”によって人格を改造し、命を危険にさらしてまで彼女から好かれようとするのだ。
とはいえ、陽人が自身の障害に思い悩み、苦悩を口にするといった説明的かつ感傷的なシーンは一切ない。そのため、彼が命を危険にさらしてまで農薬を口にし続ける姿に、哀切なものを感じとれるかどうかが、本作の物語に乗れるか、否かを決める分水嶺となるだろう。
映画全編にわたって津軽弁が用いられているのも大きな特徴だ。青森地方に縁もゆかりもない人には、理解不可能な方言が飛び交うにもかかわらず、字幕などで理解をアシストする配慮は一切されていない。セリフ表現においては徹底したリアリズムが貫かれているのだ。
空想的なエピソードとリアルに根ざしたセリフ表現が渾然一体となった脚本は、安易な理解を拒んでおり、ハードコアな魅力をたたえている。一方で、観る人の好みを選ぶと言えるだろう。