ウルトラミラクルラブストーリー 配役の魅力
主役の陽人を演じた松山ケンイチは、青森出身。のんびりとした響きを持つ津軽弁を完璧に操り、突拍子もないアクションで風を巻き起こす姿は極めて魅力的である。町子が勤める保育園の子供たちや、地元のエキストラとも完璧に馴染んでおり、芝居を超えた存在感をフィルムに刻みつけている。
道を歩きながらピョンピョン飛び跳ねたり、病院の診察室では回転椅子に座って身を何度もターンさせるなど、引きのショットにおける、全身を使った伸びやかなアクションが素晴らしい。
陽人から熱烈なアプローチを受けるヒロインの町子を演じるのは、麻生久美子。月並みな恋愛映画であれば、主人公が型破りなキャラクターである場合、相手役には常識人か、強烈なツッコミキャラを組み合わせようものだ。
しかし、町子は陽人の求愛に困惑する一方、亡くなった婚約者の首を追い求めるなど、陽人に勝るとも劣らないほどぶっ飛んだ人物である。内面が深く描かれるわけでもなく、ともすると、陳腐なキャラクターになってしまうところだが、麻生久美子の卓抜したコメディセンスによって、独自の魅力を持った存在として描かれている。
陽人を優しく見守る村医者に扮したのは、名優・原田芳雄。アドリブも交えた松山ケンイチの奔放な芝居を貫禄たっぷりに受け止めつつ、呆れたように笑う仕草は、果たして素なのか演技なのか皆目わからない。そんな両者の絡みは、一流ミュージシャン同士のジャムセッションを見ているような気分に浸らせてくれる。
顔のない男に扮した井浦新は、実質的には声のみの出演。保育園の子供たちや、役名のないエキストラの人々もリラックスした表情でフレームに収まっており、作品のすみずみまで大らかなムードを浸透させることに貢献している。