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過去作のキャッチコピーとの違いから読み解く本作のメッセージ

© 2023 Studio Ghibli
© 2023 Studio Ghibli

また、序盤から崩壊と死の匂いが全編に満ち溢れているのも本作の特徴だろう。例えば序盤の火事のシーンは、なんとも陰鬱な雰囲気で幕を開ける。とぐろを巻くどす黒い炎は、まるで一つの生き物であるかのように美しく、再生と崩壊が同時に起こっているような印象が感じられる。そして終盤には、とある老人が登場する。長年塔の中に住み、後継者を探していると語るその人物は、まさに老境の宮崎そのものだ(この人物を演じる火野正平は、庵野秀明が演じた『風立ちぬ』の堀越二郎よろしく、不器用な声を披露している)。

本作にはなぜこれほど死のモチーフが現れているのか。この問題を解く鍵となるのが、本作のタイトルだ。1937年に発表された吉野源三郎の小説から取られたこのタイトルは、本作の内容とは正直あまり関係がない。現に、この小説はナツコの家のシーンで申し訳程度に登場するだけで、なくてもストーリー上全く問題がない。

ではなぜ、宮崎はわざわざこのタイトルを採用したのか。それは、このタイトルが御年82歳となる宮崎の「生きる」への思いを端的に表現したキャッチコピーだからに他ならない。

宮崎はこれまで、アニメーション(ラテン語で「霊魂」を意味するAnimaが語源)を通して、人間や動物の「生きる」を描出してきた。それが端的に現れているのは、宮崎作品のキャッチコピーだ。例えば『もののけ姫』では、主人公アシタカのセリフから「生きろ。」が、そして『風立ちぬ』では「生きねば。」がキャッチコピーに採用されている。

この二つのキャッチコピーは、どちらも「生きなければならない」という強い主体性と意志を感じさせるものになっている。しかし、本作のタイトルでもある「君たちはどう生きるか」では、こういった主体性や生への執着は微塵も感じられない。

そう、宮崎はもう生き抜いたのだ。必死でもがき、苦しみながらも、自身の生を全うしたのだ。だからこそ、若い私たちに「これからどう生きるのか」と期待を託しているのだ。

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