映画『ホゾを咬む』がモノクロ映画になった経緯とは?
Q. 一卵性双子のフクリ・シッタの設定はどう考えたのでしょうか?
人との関係にまつわる本作において、卵子という絶対的な根本を共有している双子という存在は特別です。現実世界において考えてみても、双子には自分たちの中だけの言語観があるように思います。
双子がもつ特殊なムードを、この作品では主人公が監視生活の入り口に置いています。阿吽像や狛犬のように。
Q. 牧田夫妻はどういう設定ですか?
なにかで成功してすごくお金を持っているセレブのような設定です。そういう生活を送る人たちには、僕には理解できない時間の流れや理屈を感じます。
昔唐揚げ屋でバイトしていた時に、全身緑色の服を着たマダムが来て、いきなり「あんたはこんなところで働いていていいのか?」と説教されたことがありました。
もう顔も覚えていないけど、あのアダムが牧田夫妻になったと思います。
Q. 冒頭の夢のシーンやコゾウはどういう設定ですか?
あれは、お盆の集まりというイメージでした。あの夫婦が結婚して12〜13年経っているという設定なんですけれど、コゾウは、その中で生まれるはずだった子供、水子というような設定です。
ハジメとミツが本来だったら作りたかった子供ができていたら、この二人は「子供がいる家庭」として、違う関係性が築けていただろうけれど、それができなかったということで、ハジメが感じている罪悪感が悪夢という形になっています。
形にならなかった子供たちのお盆という感じです。
本作は、妻への惚れ直しというか、自分の見ていた妻と違った、自分の中の妻像を作り直すまでの話なんですけれど、その中で、同じ対象に違う新しい魅力を発見するということは、自分の中にそれを良しとする感性を発見するということだと思うので、電話でコゾウが言ってくるのは、自分の知らないシワやシミを発見することと同じというか、それを想起させるためです。ホクロというのは、妻への新しい欲動という意味合いです。
Q. コゾウは、夏のシーンなのに飛行帽を被っていたりとルックからして面白いですが、アイデアはどこから来たのですか?
男の子が好きなものを身につけるというわんぱくさを入れたかったです。スタイリストに、「土着的なものなどごちゃごちゃなものをつけたい」と伝えました。植芝理一さんの『ディスコミュニケーション』からの影響も大きいです。
コゾウには風俗的なものを感じさせたかったんです。その結果使用した飛行帽から、音響効果の小川(武)さんのアイデアで、コゾウの登場シーンにはすべて飛行艇のような音を付けています。
Q. モノクロにした理由はどこにありますか?
元々はカラーで撮影したんですが、カメラマンの西村(博光)さんが、ラッシュを観た時に、「モノクロにした方がいいんじゃないか」とおっしゃって、そこから変えていきました。脚本は約1時間分だったんですけれど、撮った映像を繋げてみたら2時間半でした。
演出をつけていく中で、かなり間を使っていったからです。言葉や人の動きを記号にしていって、記号が動いているのを観て何を感じるかというのを突き詰めていきました。
色を含め情報が多いと、そこに集中できなくなってしまう部分もあったので、モノクロを提案されてやってみたところ、演出でしようと思っていたことがさらにフォーカスされたので、確かにモノクロはいいなと思いました。
Q. 撮影監督の西村博光さんは、武正晴監督作品に数多く参加していてお忙しい方かと思いますが、どのような経緯で本作への参加が決まったんですか?
僕は塚本晋也監督のところにいたので、元々は自分で全部やるというやり方をしていました。
今回は別の方とやってみたいと思ったんですが、どうせなら、何か自分には届かないようなレベルの方とやりたいと、プロデューサーの小沢(まゆ)さんにスタッフィングをお願いしました。
小沢(まゆ)さんのデビュー作『少女〜an adolescent』からのお知り合いだった西村(博光)さんにお声がけいただいて、ありがたく本作に参加していただきました。