プロデューサーならではの”特殊な仕掛け”
また、必ずしもミステリーという体裁をとっているわけではいないものの、どの作品にも“ある種の仕掛け”があるのが特色で、この辺りは川村元気の“ヒット映画のプロデューサー”ならではの視点を感じさせる。
たとえば、『世界から猫が消えたなら』では、物語全体を通して主人公が寿命を延ばす代わりに一つのものが世界から消えていくという、“悪魔から課される条件”。『億男』なら突然大金と共に姿を消した親友の足跡を追うことが大きな仕掛けとなっている。『百花』では、アルツハイマー型認知症となった母親が語る“半分の花火”の正体が物語の大きな肝となっている。
本作『四月になれば彼女は』でもそうした仕掛けは健在だ。
結婚式を直前に控えながら突然失踪した婚約者・坂本弥生(演:長澤まさみ)の行方を主人公の精神科医・藤代俊(演:佐藤健)が追うことで見えてくる事柄と、学生時代の恋人の伊予田春(演:森七菜)から届く手紙(それは世界各地から送られてくる)の意味が大きな仕掛けになっている。
ここまで川村元気作品に関して“ミステリー的な謎”と言わずに“仕掛け”と表現しているが、これも原作者の独特のファンタジー的なセンスや設定によるところが大きい。
『世界から猫が消えたなら』は本当に“悪魔”が登場するというストレートなファンタジー設定が持ち込まれているし、『億男』では大金とともに姿を消した男を追いながら「お金によってこうも人は変わるのか!?」と思わされるほど極端な人々の姿を描き、『百花』では消えゆく記憶の中にある“半分の花火の正体”とその美しさを描く。
『世界から猫が消えたなら』の場合はともかく、例に挙げた他の2作は現実社会でリアリティーが成立するか否か、ギリギリのところを攻めた設定である。
その一方で、人の生き死にや金銭問題、親子や恋人といった人間関係の破綻の危機など実はかなり人間の持つ生々しい部分を描いているのも川村作品の顕著な特徴だろう。特殊な設定による寓話性と生々しさ。二極の共存がどの作品でも見られるのだ。