寓話性を帯びながらも誰もが楽しめるエンターテインメント
今回の映画並びに原作小説の『四月になれば彼女は』もまた“人間心理の不確定さ”、そして時代を越えて保ち続けられる感情(=恋)のあり方を探求する、生々しい物語になっている。
主人公の俊は、結婚式直前に姿を消した婚約者・弥生との恋と、学生時代の恋人・春との恋を交互に行き来することになる。その過程で、二つの時代の二人の恋人が抱えている(抱えていた)複雑な事柄・感情について、自分が知らないことの多さに気付かされていく。
本作で描かれている女性たちの複雑な感情と、それに伴う行動の多くは、その意味を推しはかるのが難しいほど曖昧で、わかりやすい枠に収めることは難しい。それを追う主人公の職業が、人の心の深層に分け入っていく精神科医であるというのもポイントだろう。
むき出しの恋愛感情という生々しい部分を描き出しながら弥生と春の想いが意外な帰結を結ぶとき、『四月になれば彼女は』の物語は一気に寓話性が高いものへと昇華されていくことになる。
と、ここまで書くと本作を筆頭に、川村元気原作映画がどれも複雑な心理描写が展開されるわかりづらい映画なのではと思われるかもしれないが、そんなことは決してない。
登場人物の複雑な心の内を丹念に描くと同時に、誰もが楽しめるエンターテインメントにしっかりと落とし込んでいるのは、“ヒット映画のプロデューサー”である川村の面目躍如だろう。
スタッフィングにも注目したい。関わったスタッフの並びを見ると、ある種のバランス感覚の良さに気付かされる。『世界から猫が消えたなら』では当時まだ長編の経験が少なかった永井聡に監督を託す一方で、脚本はベテランの岡田恵和を配して、新しい感性とベテランの味、両方を上手く取り込むことに成功している。
キャスティング面でも『世界から猫が消えたなら』で佐藤健と宮崎あおい、『億男』では佐藤健と高橋一生、『百花』菅田将暉と長澤まさみといったその時々の人気と実力を兼ね備えた面々を主要キャラクターに据えることで映画全体に“ポップさ”を持たせることができている。
そして映画『四月になれば彼女は』では佐藤健、長澤まさみ、森七菜という並びが映画に彩を与えてくれる。
同じことは音楽・主題歌(これまでも小林武史、佐藤直記、BUMP OF CHICKEN、藤井風などを起用)の面でも見て取れる。キャストや音楽の面、認知度の高い面々を起用して、作品の間口を拡げるというのは定番の手法ではあるものの、やはり効果は高い。