観る者の心を武装解除し晴れやかな気持ちにさせる
川村元気の小説を読み、実写化作品を観ていくと、もっとファンタジーに振り切ってしまうこともできたのではないかと思う時がある。ただ、その一歩前で踏みとどまることで、リアリティを担保し、見ている人の共感を呼ぶ。
登場人物たちの行動は行き当たりばったりで、その結果も偶然の産物に見えることもあるが、そうした醒めた感情は作品を見進めるにつれて変容する。結果にともなう小さな希望、ちょっとした奇跡が描かれるクライマックスは観る者の心を武装解除し、晴れやかな気持ちにさせてくれる。
そうした作劇術は『四月になれば彼女は』でも十全に発揮されている。
二つの時代の恋愛を行き来することになった主人公は、かつての恋人と、行方不明になった現在の恋人の間に奇妙な繋がりがあったことを知る。
新旧の恋人のもとを交互に行き来する主人公の心の旅は、二つの恋が“ある形”に昇華されることで、最終的には現実生活に希望を感じさせる結果をもたらす。その点、本作は観る者に厳しい現実を突きつけつつ、希望もまた抱かせる、“現実に即した寓話”であると言えるかもしれない。
川村元気作品の持つ独特な寓話性・ファンタジー性は映画というメディアと相性が良い。今後も彼の小説の映画化がとても楽しみだ。
(文:村松健太郎)
【作品情報】
「四月になれば彼女は」
全国東宝系にて公開中
出演:佐藤健 長澤まさみ 森七菜
仲野太賀 中島歩 河合優実 ともさかりえ
竹野内豊
原作:川村元気「四月なれば彼女は」(文春文庫) ※発行部数:35万部
監督:山田智和
脚本:木戸雄一郎 山田智和 川村元気
撮影:今村圭佑
音楽:小林武史
©2024「四月になれば彼女は」製作委員会
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