リアリティあふれる映像をものにした深作欣二の演出力
1973年からスタートした『仁義なき戦い』シリーズを手がけ、「実録ヤクザ映画」ブームの火付け役を果たした、深作欣二監督(1930〜2003)の代表作の一本。『仁義なき戦い』が裏切りと暴力の連鎖をリアルに描きながらも、主演をつとめた菅原文太の生気あふれる芝居によってエネルギッシュな印象を与えるのに対し、実在する破滅型のヤクザを主人公にした本作はひたすら暗く、救いがない。
並み居る傑作が揃う東映ヤクザ映画の中でも、見たら二度と忘れない、インパクトのあるシーンの豊富さでは右に出る作品はないだろう。主人公の石川力夫(渡哲也)が車の給油口に火を放つシーンでは、爆発する車体とエキストラの距離が異様に近く、思わず画面に向かって「危ない!」と叫んでしまいそうになるほど。
石川が刑務所の屋上から投身自殺を遂げるラストシーンでは、生身の人間が15メートルはあろうかという高所から身を投げる瞬間が捉えられる。地面に落下した石川のカラダから噴き出る血量も尋常ではない。こうした常軌を逸した迫真の映像の数々は、スタントマンの高い技術もさることながら、とことんリアルを追求する深作欣二の卓越した演出力によって生み出されたものに他ならない。
主人公・石川力夫の幼少時からヤクザに身を落とすまでの成長過程を、色あせたスチール写真で示す演出も息を飲むほどリアルだ。米軍、警察、ヤクザが一堂に会し、一触即発となるシーンでは、スクリーン全体に人があふれ、映像のボルテージは頂点に。異なる立場の者が入り乱れ、ドスの効いた視線を向け合い、怒声が飛び交うサマは沸騰する闇鍋を思わせる。戦後まもない新宿の狂騒的な雰囲気を伝える名場面である。
石川は牢屋の壁に「大笑い 30年の 馬鹿騒ぎ」という辞世の句を書きつけ、わずか30歳で燃え尽きる。実際の石川力夫の墓石を映したカットで幕を閉じるまで、観客は呼吸を忘れて画面に釘づけになるだろう。