ホーム » 投稿 » 日本映画 » レビュー » 映画「仁義の墓場」刑務所の屋上からダイブ…。破天荒なヤクザの半生を描く衝撃の実話<あらすじ 考察 解説 評価 レビュー> » Page 5

点滴を打ちながら薬物中毒のヤクザを演じた渡哲也の気迫の芝居

主役の石川に扮し、日本映画史上に残る名演をみせたのは、日活出身の渡哲也(1941〜2020)。本作が公開される前年の1974年当時、人気はピークを迎えており、大河ドラマ『勝海舟』の主役に抜擢されるも、収録中に体調を崩し、無念の降板。およそ9ヶ月の療養期間を経て、復帰一作目となったのが本作である。

敵を選ばず暴れまわる序盤までは、躍動感のあるアクションで惹きつける。しかし、中盤以降は薬物に溺れ、顔面蒼白で虚ろな目をさまよわせ、観る者の背筋を凍らせる。徹夜での撮影が続き、病み上がりだった渡は徐々に体調を悪化させ、後半は点滴を打ちながら、満身創痍で役を演じていたという。

ほとんど廃人となって、妻の遺骨を頬張る芝居の迫力は凄まじく、後世の語り草に。本作は、演出、脚本ともにリアルを志向しているが、渡の演技はそれに十二分に応えている。

石川を気にかけ、のちに対立するヤクザ・今井を演じた梅宮辰夫、今井組の幹部を演じた山城新伍など、『仁義なき戦い』でもおなじみ、東映のスター俳優たちも続々登場。騒動を起こした石川を仲間に引き入れ、協力して敵対グループへと殴り込む序盤のシーンは、日活からフリーになり、本作で初めて東映作品に出演を果たした渡を歓迎しているようで微笑ましい。ちなみに山城新伍は、同じ原作を映画化した『新・仁義の墓場』(監督は三池崇史)にも出演している。

飼い犬である石川に反旗を翻され、腹を刺される河田組の組長を演じたのは戦後を代表するコメディアン・ハナ肇。偉そうにしてはいるものの、肝の小ささが透けてみえるヤクザの親分はハマり役であり、キャスティングの妙が光る。石川を薬物中毒に陥れるならず者に扮した田中邦衛も、キレのある演技を披露している。

石川の妻・地恵子を演じたのは、多岐川裕美。石川に先立ち、若くして自死する薄幸の女性を説得力豊かに体現。病床で血を吐いた地恵子を尻目に、薬物に溺れる石川を映したシーンは、あまりの救いのなさに言葉をなくす。ちなみに、石川と同じく地恵子も実在した人物であり、映画で描かれたように非業の死を遂げている。

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