「東出くん。芝居ってハッタリだよ」
染谷将太から手渡された一冊の本
―――『桐島』や『クローズEXPLODE』で四苦八苦しながらお芝居をされていたということがよくわかりました。その一方でタレントとしての認知度はグッと高まりましたよね。
「『桐島』の試写を観た方が、朝ドラの声をかけてくれて、あれよあれよと。ただ、こんなに一気に知名度が上がることなんてそうそうないので、恐怖心もありました。芝居の『し』の字みたいなものがおぼろげながらもわかってきて、演じるのが楽しいと思えるようになったのは、デビューから3、4年経った頃。作品名を挙げると『菊とギロチン』(2018)『聖の青春』(2016)への出演がブレイクスルーのきっかけだと思います」
―――ブレイクスルーのきっかけになった2本の作品については後ほど伺うとして、ご自身の演技を見つめ直す上で転機となったエピソードはありますか?
「事務所に入ってすぐに、WOWOWドラマ『ホリック』(2013)で尊敬する同世代の一人である染谷将太君と初めて共演しました。現場で染ちゃんは一発でOKを出す。それに対して僕はセリフを言うのも精一杯。たしか『おい、気をつけろ』といったセリフがあって、自分なりに気持ちを込めて発声したら、現場は失笑。スタッフさんから『声、上擦ってるし』みたいに言われて、中々OKが出ない。現場では、東出でいるのか(演じた)百目鬼役でいるのか、よく分かんなくなっちゃって。
宇都宮ロケだったんですけど、染ちゃんと撮影の合間に餃子を食べに行って。夜道を一緒に歩きながら、『いや〜芝居って、どうすればいいの?』って訊いたんです。そうしたら染ちゃんが、『いや、東出くん。芝居ってハッタリだよ』って。それ以上何も言わない。少しして『でもね、そのままでいいんだよ』と。『マジ?でも苦しいじゃん』って返したら、『いや、そのままが映画として面白いから』って言われたんです。
今思い返すと、先ほどおっしゃっていた、よく分からずに戸惑っているところの魅力みたいなことだったのかもしれません。でも当時の僕は下手こきたくない、上手いって言われたいという思いがすごく強かった。で、その翌日、東京ロケで染ちゃんが『はい』ってプレゼントしてくれたのが、ロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書 映画監督のノ−ト』だったんです」
―――おお~!『スリ』(1959)や『ラルジャン』(1983)といった作品で知られる、フランスのヌーヴェルヴァーグに多大な影響を与えた映画監督の名著ですね。
「すぐに読んで『何一つ分かんないんだけど』って言ったら、『そのうち分かってくるようになるよ。悩み続けていれば』って言われたんですよ。今でも『シネマトグラフ覚書』は持っていますし、すべてを理解したわけではないけれども、学問としてお芝居を考えるきっかけをくれたのは染ちゃんと数々の名画、当時の所属事務所でした」
―――映画の見方も変わりましたか?
「当時、お金がなくて、パソコンも持っていなかったから、とりあえずDVDプレイヤーを買って、代官山のTUTAYAに通いまくりました。コンシェルジュの方と仲良くなって、その方に、『これを観なさい。あれを観なさい』ってひたすら教えてもらって。邦画だと小津安二郎や溝口健二はもちろん、木下恵介や今村昌平、洋画ではルキノ・ヴィスコンティとか。ブレッソンの映画も観ましたね」
―――当時、染谷さん以外で影響を受けた同世代の俳優さんはいらっしゃいますか?
「僕が16歳の時にモデルのオーディションで一緒になったのが高良健吾。その後も連絡を取り合う仲でした。彼は僕よりも先に役者として走り出していて、『桐島』で日本アカデ
ミー賞に呼んでいただいた時、高良は『苦役列車』(2012)で助演男優賞にノミネートされていて、それまでもちょくちょく飯食ったりしていたんですけど、授賞式の席で『会ったね』って。
その場で高良に『いい役者って何?』って訊いたんです。それで彼から『俺も先輩から聞いたんだけど』って、作品を色々教えてもらって。例えば、笠置衆の魅力なんかも高良から教えてもらったり、彼は彼で先輩に教わったことをそのまま僕に伝えてくれたり。そう考えるとずっと人の影響ですね」
―――外から見ると、役者さん同士って、同業者でもあるので手の内を明かさないとか、ちょっとした緊張関係にあるのかなと想像していたのですが、東出さんは同業者と互いの
考えをしっかり伝え合って、高め合っていくような関係の築き方をされていますね。
「役者の中には、幼少期から演技の仕事をしていた方とか、先天的にお芝居ができる方もいて。彼らは彼らで『良い芝居って何だろう』と悩んでいると思うのですが、僕の場合は、人一倍不器用であるという自覚があって。色んな方から様々な話を聞いて、学問を究めるようにして、ちょっとずつ学んでいったタイプです。だから逆に人に聞かれれば基本何でも答えるようにしています」