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「さっきのあの光、気持ち悪かったんでやってください」
黒沢清『クリーピー 偽りの隣人』

写真:宮城夏子
写真宮城夏子

―――かつて松田優作が原田芳雄や萩原健一に影響をされたように、東出さんの指針となった先輩の役者さんはいますか?

「キャリアを重ねるにつれてどんどん増えていきました。やっぱり役所広司さんは凄いなってずっと思っていますし。古舘寛治さん、黒田大輔さん『恋人たち』(2015)の篠原篤さん…挙げていったらキリがないですね」

―――役所広司さんといえば、黒沢清監督の作品に多く出演されていますが、東出さんも2016年公開の『クリーピー 偽りの隣人』(以下、『クリーピー』)を皮切りに、ドラマも含めて4本の黒沢作品に出演されていますね。

「『クローズEXPLODE』の後、『寄生獣』(2014〜2015)や『アオハライド』(2014)、『デスノート Light up the NEW world』(2016)といった大作映画に立て続けに出演させていただいて。

これらの作品では、悲しい時は悲しい顔、怒っている時は怒っている顔と、誰が見てもわかりやすい、キャッチーなお芝居を求められましたが、『クリーピー』はそうじゃないんだろうなと思って、現場に臨んだんです。そうしたら、現場で、黒沢さんが他の出演者さんに『怒っているからって怒った顔をしないでください』と真横で演出していて。ああ『やっぱり』って」

―――東出さんが演じた“野上”というキャラクターは、心に闇を抱えた刑事でした。

「野上っていうのは、日々殺人事件を扱っているうちに、世界がそういうふうに見えるようになってしまった人物です。『この人の特徴は一人称が自分なんです』。黒沢さんからの役の説明はこれだけ。

それまで『0,5ミリ』(2014)でカラオケ店員という役があったんですけど、それ以外は役にちゃんと姓と名があって、プロフィールになりそうな情報があったんです。でも今回は『野上は野上ですから』みたいな。『なるほどね』って。現場行って気持ち悪いお芝居をやろうと思って。やってみたら『そんな感じで』って、ニコニコ笑ってくださって」

―――気持ち悪いお芝居ですか。具体的にはどのようなものでしょうか?

「劇中で、野上が家屋に侵入するシーンがあるんですけど、片方の手に懐中電灯を持っていたんです。このシーンで懐中電灯の光がカメラを跨いだら、観る人に違和感を与えられるかなって思って、テストで試してみたものの、さすがにトゥーマッチかなと反省して、本番ではやらなかったんです。そうしたら監督が来て、『さっきのあの光、気持ち悪かったんでやってください』って言われたんですよ(笑)。『ほー』と思って。

それは役の感情表現によってではなく、映画的技法で効果を生むっていうことなのかなと。その頃には黒沢さんの著作も読んでいたので、『あー、なるほど』って膝を打つ思いをして、楽しい現場だったんです。で、その後に入った瀬々組(『菊とギロチン』)が、とにかく“感情”と“パッション”」

―――黒沢組とは真逆ですね(笑)。

「そう、真逆なんですけど、その頃から自分が何を求められているのか、大体わかるようになってきたんです。『菊とギロチン』には『俺たちは敵じゃない。共闘だ。一緒に戦うんだ。隣のやつは敵じゃないぞ』といったセリフがあるのですが、本気で心の底から言葉を発することができました」

―――先ほどブレイクスルーとなった作品として、もう一本、『聖の青春』の名前を挙げていらっしゃいましたね。この作品で東出さんは、現在もご活躍されている実在の天才棋士・羽生善治さんを演じられています。

「公開年は『菊とギロチン』の方が2年ほど遅いですけど、『聖の青春』も撮影時期は同じ頃でした。森義隆監督が原作のノンフィクション小説にとことん惚れ込んでいらっしゃって。監督から『お前出来るか?』と。『あの松山ケンイチ演じる村山聖が主役で、俺らは組を作っとくから、そこに最大の異物としてぶつかってこい』って言われて。

役者としての気持ち、根性を認めてもらって、その上で『ぶつかってこい』と、信じてもらえたのが自分にとって凄く大きかった。だからおっしゃるとおり、ブレイクスルー。『もうできるかも。やったる』っていう気持ちで芝居に臨めるようになったのがその頃ですね。

僕は多分、恥ずかしがり屋なところと、理屈家なところと、それでいてロマンチストなところと、自信家なところがあって。だから感情をバーンって解放させるような芝居に徹することができる一方、頭でっかちな部分が役に立つ場合もあったりして。そういうことが段々とわかってきたんです」

後編はこちら

(取材・文:山田剛志)

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