「人によって視点が違ってもいい」
今の映画界に一石を投じる作品
――『ペナルティループ』の脚本を最初に読んだとき、若葉さんは最初は「撮ってみないとわからない作品」と仰ったそうですが、どの辺がそう感じたのでしょうか?
若葉「よくわからなかったですけど、日本映画によくわからない映画は必要だと思うので好感触でした。今、これだけ娯楽がある中、わかりやすく整理整頓されすぎた作品が多く、『わかりにくい作品=つまらない』というように思われているのではないかと。そんな映画界に一石を投じる作品になるのではないかと思いました。最近、みんな思考停止しているなと感じますから。それは映画の作り手も同じです。
だから僕は『ペナルティループ』 のような、ノイジーな世界観を持った映画に参加したい気持ちはブレなかったし、脚本を読んだとき、もっとおもしろくなると思いました。ただ、そのとき、おもしろくなる手段がまだ掴めていなかったので、監督に『わからない』と言ったんです」
荒木「僕も若葉さんが今言った “わかりやすさ至上主義”みたいなことは強く感じます。わかりやすいのが悪いわけではないのですが、そればかりでいいのかとも思うんです。この国の国語教育では、作者の趣旨や狙いを見抜けとやたら問われますが、まるで表現には正解の解釈があるみたいになっていると思うんです。表現に触れることって、もっと感覚的でいいと思うし、人によって答えがバラバラでいいと思っています。
現実には多くの人に理解してもらえる作品が主流です。宣伝しやすくて、どこを褒めたらいいのか一回見ただけでわかる……。そんな作品が多い中、『ペナルティループ』は茨の道を行くぞ!という作品。若葉さんの出演が決まったとき、これに乗ってくれるのか! と嬉しく思いました」
――『ペナルティループ』は、定点からの撮影や引きの絵の見せ方など独特だと感じましたが、撮影について教えてください。また荒木監督が影響を受けた監督や作品はありますか?
荒木「何かの作品をベースにしていることはないですね。参考にしたり、ベースにしたりするほど記憶していないんです(笑)。だから、アングル、カット割、その時々で自分にとって気持ちのいいものを選んでいるだけです。
映画監督は好きな人、尊敬している人、沢山いますが、別の仕事をしていた自分を、うーん、やっぱり映画を撮らなくちゃなという気分にさせてくれたのは、イ・チャンドンですね。『シークレット・サンシャイン』(2007)がとにかく衝撃で、『ポエトリー アグネスの詩』(2010)も好きです。真似したいけど上手くできないし、分析したけど、見ていると夢中になって分析できません(笑)」