中条あやみが新境地を開拓…? 感情の乗った脚本の素晴らしさとは? 映画『あまろっく』徹底考察&評価。忖度なしガチレビュー
text by 寺島武志
兵庫県尼崎市を舞台に、笑福亭鶴瓶、中条あやみ、江口のりこという関西出身のキャストで送る家族の物語『あまろっく』が、現在絶賛公開中だ。63歳の能天気な父親が20歳の再婚相手を連れてくる奇想天外な物語。今回は、そんな本作の見どころを紹介する。(文・寺島武志)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
尼崎市の守り神
“あまろっく”って何?
本作の内容に触れる前に、タイトル通りである「あまろっく」とは何ぞや? と思い、調べてみた。いわゆる「ゼロメートル地帯」である尼崎市。加えて、工業都市であり、大量の地下水が汲み上げられたことで地盤沈下が進み、台風の度に浸水被害に悩まされていたという。
度重なる水害から街を守るために建設されたのが、尼崎閘門、通称「尼ロック」だ。竣工された昭和30年代以降、尼崎市民にとっては“守り神”として鎮座している。
本作の主人公・近松竜太郎(中年期:松尾諭→老年期:笑福亭鶴瓶)は、近松鉄工所の社長でありながら、ほとんど出社せずに街ブラしながら顔見知りと遊んでいたり、家で寝転びながらテレビを見ているだけの毎日。それでも悪びれることなく「俺は“尼ロック”や」と言い続けるのだ。
そんな父親を見て育った一人娘の優子(江口のりこ)は、父を反面教師とするかのように勉学に励み、京大に進み、ボート部でも活躍。その後、東京の大手シンクタンクに入社、成績優秀者として表彰されるほどの優秀な社員となった。そんな優子が男の後輩社員に対し、俗に言う“尼弁”で叱るシーンから、物語は始まる。
後輩を叱った口ぶりがあまりに汚くパワハラとされたのか、優秀過ぎて手に負えなくなったのか分からないまま、ある日突然、理不尽なリストラに遭う。再び尼崎の実家に戻った優子を待っていたのは、父・竜太郎が作った「祝・リストラ」と書いた幕。
娘が傷ついて帰ってきたにもかかわらず、赤飯を炊き、「人生に起こることはなんでも楽しまな」という言葉で出迎える。母親は、優子の大学時代に早世しており、竜太郎は独身生活を楽しんでいた。
おちょくられたと感じた優子は、尼崎駅前でおでん屋台を営む同級生の鮎川太一(駿河太郎)に愚痴をぶつける。