すれ違いの恋愛で、ゆっくり作る「愛」
さて、早速本作について考察したい。
デザイナーである悟は、自身が店のデザインを手がけた行きつけのカフェ「ピアノ」にて、みゆきと出会う。みゆきは、店のドアノブやトイレの細かい部分など、誰もあまり気にしないところが素敵だと、悟に告げる。
そんな感性のみゆきに、見た目の美しさも含め、一瞬で恋に落ちてしまった悟。
翌週に同店で会った際には連絡先の交換を申し出るが、みゆきは携帯電話を持っていないという。聞けば、毎週木曜日には、大体、「ピアノ」に来ているという彼女。ここからの会話に、注目したい。
悟「もし来週どちらかが、用事ができて来られなかったら、連絡することもできないし、ちょっと寂しいですね」
みゆき「私は、悟さんが来ない時は都合が悪いと思うし、続けて来なければ、来たくても来られないんだって思います。お互いに会いたいと思う気持ちがあれば、絶対に会えますよ。だって、『ピアノ』に来ればいいんですもの」
現代において、みゆきのように携帯電話を持たない生活など、想像できるであろうか? しかし、かつてはそれが当たり前であり、連絡がつかずのすれ違いの恋愛は、日常茶飯事であった。
アラフォー世代である悟は、20代、いや、10代後半のころにはおそらく携帯は持っていただろうし、こんな経験は初めてであろう。いや、恋愛には奥手であったと思われる悟が女性に連絡先を聞いたのも、生まれて初めてだったのかもしれない。
ここでまず、タイトルである『アナログ』の意味が、明らかにされる。