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無理やりではなく淡々と綴る「死の描写」

高橋恵子
高橋恵子Getty Images

そして、悟の母(高橋惠子)も、とても良くできた人格者である。入院の末、病死するのだが、このあたりの描写も自然な流れ。非常にいい意味で「死の描写」が心地よい。

見舞いにくる悟に、「好きな人できた?」「結婚しなさい」など、とても母親らしい優しい言葉を投げかけ、悟が病院にいない時に静かに息を引き取る。

病院に駆けつけた悟は、落胆はするが、涙を流すことはなかった。

いつ亡くなってもおかしくない身内を持った人の反応とは、こういうものなのだと思う。誰にでもいつかは訪れる親の死。無理矢理悲劇として描くのではなく、この淡々とした当たり前の死の表現は、たけし氏のこだわりなのではないであろうか。

さらに、この悟の母の葬儀に訪れた淳一と良雄の、葬儀後においての悟への対応がまた、泣かせるのだ。

悟の母は、2人が中学生時代に街中で不良たちにカツアゲされていたところを目撃し、買い物で買った大根を振り回して、不良たちを追っ払ってくれた。彼らの間では「大根事件」と語り継がれ、葬儀の後には悟よりも彼らの方が涙を流すのである。

くどいようだが、いい大人になって自身の母親の死を本気で悲しんでくれる友人というものは、作ろうと思っても作れるものではない。本作のベストシーンとして筆者の記憶に残った。

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