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「愛」という感情だけではどうにもならない現実

リリーフランキーGetty Images

悟とみゆきの関係性について、話を戻そう。

2年前、悟はみゆきとの海のデートの際に、即席で「糸電話」を作り、結婚したい気持ちを伝える。しかし、みゆきの返事は波でかき消されよく聞こえなかった。その後、みゆきは突如「ピアノ」に現れなくなり、2人は2年もの間、会えない時間が続いた。

自分は結局、そのくらいの存在だったのかと落胆する悟だったが、みゆきの過去を音楽関係の会社に勤めている良雄の情報から知ることになる。

彼女は、実は国内外で有名なバイオリニスト/ナオミ・チューリング(旧姓 古田奈緒美)であり、オーストリア留学中、ピアニストのミハエル・チューリングと20歳で結婚。ヨーロッパを中心に演奏活動をしていたが、2007年、ミハエルの急死により活動を中止。帰国後、音楽界から引退していた人物だったのだ。

そして、良雄たちから更に得た情報で、2年前、みゆきはいつも通り木曜日に「ピアノ」へと、悟に会いに行っていたということを知る。その道中のタクシー内で交通事故に遭遇し、半身不随に加え、頭に強い衝撃を受け、記憶喪失になってしまったのだった。

なんとか、みゆきの居場所を探し、みゆきの介護をしている姉・香津美(板谷由夏)と会えることになったが、「あなたは赤の他人です。面倒を見なければならないのは、私たち家族だ」と、拒絶されてしまう。

しかし、「僕も家族になりたかったんです」と、みゆきと定期的に会うことを懇願する悟。この描き方にも、非常にリアリティーを感じた。「愛」という感情だけではどうにもならない、現実。

「結婚」とは、色んな意味で親族も、必然的に巻き込んでしまう制度であること。そんな困難を姉である香津美はわかっているから、悟のことを拒んだのだ。しかし、悟は、自身のみゆきに対する「愛」を貫き通す。

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