監督・福山雅治のこだわり
感動の静寂の中、歌い植わった福山は、「『KISSして』の時、なんで、『キスして!』って言わなかったの~?」と、最後の最後でおどけてみせる。そして、『キスして!』と、投げキッスをしながら、各方向にアピール。
これには当然のごとく、ファンたちも「キスして!」と、半ば条件反射的に、福山に返す。そんな、大団円の中、スクリーンの向こう側とは言え、本当にライブ会場にいたかのような、夢か現実か錯覚するようなその世界は、幕を閉じた。
最後に、冒頭で登場した少年がライブの最後に笑っている姿、日本武道館を後にする映像が差し込まれる。その少年の帰り道の表情は、どこか意気揚々としている。もちろん、このカットはフィクションの映像なのであるが、“あの日”の余韻を次世代にバトンタッチするような秀逸な演出であった。
また、極めつけは、エンドロールにライブバージョンの『家族になろうよ』を流す演出だろう。福山雅治のキャリアを通して屈指の名曲として名高いこの楽曲は、新しい家族を迎える喜びと覚悟を歌い上げた作品である。
一方で、1人ぼっちの少年の心情に寄り添うようなメッセージも含んでおり、福山雅治自身の孤独が表現されている曲なのではないかと、筆者は勝手に考えている。その点、この曲で映画が締めくくられることは、福山雅治というアーティストの複雑な魅力を余すところなく伝えるようで、とても好感をもった。さすが本人が監督を務めているだけある。
福山雅治ファンではなくと、スクリーン越しの「LIVE」の凄まじさを味わってみていただきたいライブ映画の傑作である。
(文・ZAKKY)
【作品情報】
「FUKUYAMA MASAHARU LIVE FILM 言霊の幸(ルビ:さき)わう夏 @NIPPON BUDOKAN2023」
※英数字全て半角 「※~FILM」「言霊の幸わう夏」「@NIPPON~」の字間は全角スペース 「※2023」読み方=にせんにじゅうさん
■監督:福山雅治 出演■:福山雅治、柊木陽太
■配給:松竹
■製作:アミューズ
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