際立つ初代ゴジラへのリスペクト
またゴジラの放つ放射熱線は、明らかに原子爆弾を彷彿させている。
特に爆発によるキノコ雲は、露骨なほどに広島と長崎に投下された原子爆弾を思い出させる。この演出も、戦争により全てを失った日本人を更なる絶望と恐怖へと誘う、という残酷な仕打ちを表現している。
また本作は、1954年に公開された初代ゴジラへのリスペクトを感じられるポイントがいくつかある。
まずはゴジラの生息地である大戸島(架空の島)という点だろう。本作でも大戸島(架空の島)の伝承に由来する怪物として、ゴジラの名前が島民の口から伝えられている。
また戦争に対する反省と恐怖を表している点もリスペクトを感じられる。
初代ゴジラが公開されたのは、1945年の原子爆弾投下からわずか9年後。日本社会に、未だ戦争や核への恐怖が生々しく残っていたことは言うまでもない。
当時の日本人は、少なからずゴジラに戦争の面影を感じていたはずである。しかし時代の流れと共に戦争に対する反省と恐怖は薄れていってしまったのも事実である。
そんな中、ゴジラ70周年記念作品である本作は、戦争の記憶が失われつつある2023年現在に公開されることで、戦争がもたらす恐怖と二度と繰り返してはならないという反省を促す役割を果たしていると言えるだろう。
その象徴的なシーンが、ゴジラが放った放射熱線により銀座の街が壊滅的な被害を受けるシーンである。
このときにゴジラが放った放射熱線は、明らかに原子力爆弾によるキノコ雲を意識していた、いや敢えて意識させるような絵面にしていたことが窺える。ゴジラによる放射熱線の衝撃は、スクリーンの外側にいる観客にも十分過ぎる恐怖と絶望を味わわせてくれた。
あのシーンで観客は再認識したはずである、「戦争は絶対に繰り返してはならない」と。つまり本作は、1954年の初代ゴジラ同様に反戦映画として、人類に戦争の悲惨さを訴えかけているのである。