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クローズアップされるほど謎めく市子

映画『市子』
©2023 映画市子製作委員会

 

市子の過去は想像を遥かに超えるほど辛く残酷なものだった。

「市子はなぜ失踪してしまったのか?」その答えに迫れば迫るほど、市子の過去を知れば知るほど、あのプロポーズの時の市子の涙の意味と重みが明らかになっていく。

そして我々は、軽々しく「市子、もう幸せになっていいんだよ」とも言えず、何もできない空虚感を味わう。

過去と現在を行き来しながら市子像を追っていく複雑な構成だが、物語は章仕立てとなっており、語り部別に人物の名前が入るため、混乱することなく物語に没入することができる。

市子の小学校の頃の幼馴染から、高校の同級生、下宿先の友達、そして唯一の肉親である母親のパートがラストにあり、市子が小さい頃からどう成長したのかを見ることができる。

その中で、「市子は年上だったはずだったが、気がついたら「月子」と呼ばれ、同級生になっていたいた」と、幼馴染が謎めいた証言をする。そんな訳ない! と思うが、どの人から聞いた話でも過去の市子は、掴みどころがなく感情すら見えてこない。

多くの友達に恵まれていたわけではないが、高校ではいわゆる一軍に属していそうな彼氏の存在も明らかになり、第三者が語れば語るほど市子という人がますます分からなくなっていく。

小学生の頃に初めてできた友達の回想では、「あのな、私の本当の名前は月子ちゃうねん。市子言うんよ。そして人を殺したことあんねん」と恐ろしい言葉を口にする。

また、初めて自分が心を開いた友達を喜ばせたく、お金を持っていない市子が万引きし、おもちゃをプレゼントするシーンがある。

結果絶交されてしまうが、この万引きの場面で注目したいのは、市子には人と人との間にある見えない閾(しきい)を簡単に超えてしまえるという点だ。しかし一体、なぜ市子はこのような行動を起こすのだろうか?

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