北野版「母をたずねて三千里」ー演出の魅力
本作は、1999年公開の北野武監督作品。主演はビートたけしと関口雄介。第52回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、スタンディングオベーションを受けたものの、受賞には至らなかった。
ヴェネツィア国際映画祭で最高賞を獲得した『HANA-BI』から2年。愛と暴力に満ちた中年夫婦の道行きを描いた前作とは打って変わり、本作は北野版の「母をたずねて三千里」ともいうべきハートフルなロードムービーに仕上がっている。
また、本作といえば、久石譲が手がける主題歌「summer」も外せない。北野作品以外に宮崎駿監督作品なども手がける久石だが、本曲は、のちにCMやテレビでも使用され、日本の夏を象徴する名曲となった。
デビュー作『その男、凶暴につき』(1989)以来、日本のヤクザ映画特有の粘着質の情念から切り離された、徹底的にドライな暴力描写を身上としてきた北野映画だが、本作では持ち前のアクション演出は鳴りを潜め、バイオレンス描写に抵抗のある人にも見やすい作品となっている。
一方で、目的(正男の母親探し)が不首尾に終わること、後半、母親探しという当初のテーマから著しく脱線し、遊びの時間が延々と続く点など、北野作品のエッセンスがしっかり感じられる作品でもある。その点、北野武作品の入門編として持ってこいの作品だと言えるだろう。
なお、ビートたけしが演じる「菊次郎」という役名は、言わずと知れた北野武の実父の名前。ここには、シャイで飲んだくれだった実父への北野自身の複雑な愛情が反映されているのかもしれない。