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正男の絵日記ー映像の魅力

モニターを見つめる北野監督
モニターを見つめる北野監督Getty Images

本作は、「遊び」をテーマとした作品らしく、随所に遊び心たっぷりの映像が散りばめられている。

例えば、菊次郎と正男が競馬で勝った賞金でキャバクラに行くシーンでは、グラスの底に上向きに設置されたカメラのレンズに向かって、ホステスたちがシャンパンを注ぎ込むという不思議なカットが挿入されている。菊次郎と正男がカップルと別れるシーンでは、カップルの車のエンジン音に合わせて、タイヤのホイール画面全体がグルグルと回転するというある種「悪ふざけ」とも言えるようなカットが挿入される。

また、北野らしいコミカルなカット割りも本作の大きな特徴だろう。

例えば作中、菊次郎はトラックの運転手に豊橋まで乗せていくよう頼むが断られ、その腹いせとしてトラックのフロントガラスに岩をぶつける。このシーンでは、はじめ音のみで窓ガラスが割られたことが示唆され、その後、岩とフロントガラス、そして怒る運転手から、何が起きたかを想像させるという4コママンガ的な表現が採用されている。

また、続くシーンでは、北野がトラックの運転手に詰められ、喧嘩するまでの一連の流れが、極端なロングショットで撮影されている。効果音やセリフが聞こえない状況でドタバタと喧嘩をする演出には、チャップリンのドタバタ映画のようなコミカルさと可愛らしさがある。

では、なぜ本作には、これほどまでに遊び心に溢れた映像表現が散見されるのか。それは、本作全体が、正男の絵日記の体裁を取っているからだろう。つまり、本作の映像は、正男の目を通した世界の姿なのだ。

その証拠に、本作では、麿赤兒演じる「こわいおじさん」が暗黒舞踏を披露するシーンや、変装した菊次郎たちが「だるまさんが転んだ」をするシーンがインサートされる。こういった幻想的なシーンは、正男自身の夢や妄想の産物と言えるだろう。

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