北野武の集大成なのに…映画ファンが”もやもやする”ワケ。『首』考察&評価。時代劇の解体は成功したのか? 徹底解説
text by 司馬 宙
北野武監督による6年ぶりの最新作『首』が公開中だ。北野が30年間構想を温めたという本作では、“本能寺の変“を中心に、織田信長、明智光秀、豊臣秀吉ら、戦国武将たちの濃密な関係性が描かれる。本作は面白い? つまらない? 忖度なしのガチレビューをお届けする。(文・司馬宙)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
北野武とビートたけし
振り子を振り続ける作家
北野武は、実に複雑な作家だ。
芸術家・北野武と芸人・ビートたけしというこの2つの顔を持つ作家は、即物的でドライなアート系バイオレンス映画と、とことんクダラナイおバカ映画の双方で非凡なスタイルを確立し、映画史に名を残してきた。
しかし、2000年代以降、北野武とビートたけしは徐々に渾然一体となり、『アウトレイジ』(2010)以降は、大人も子どもも楽しめるバイオレンスなエンターテインメント映画の巨匠として知られている。
ここには、北野が提唱する「振り子理論」の影響が大きいだろう。この理論は、振り子のように、暴力やシリアスに大きく振れれば振れるほど、愛やお笑いにも同じくらい大きく振ることができるというものだ。つまり、今の北野映画は、振り子をさまざまな方向に振り、自身の作家性を絶えずアップデートしてきた結果なのだ。
初期作品のファンは、近年の北野映画を「才能の枯渇」「劣化」と捉える人々も多い。しかし、初期の作風を頑なに守っていては今の日本の映画界では生き残れなかったであろうこともまた確かだ。正直筆者も初期作品のファンであり、近年の作品に言いたいことがないわけではないが、ここではむしろこの変化を「成長」と捉えたい。