リアリティを追求した絵作り〜映像の魅力
周防のリアリティへのこだわりは、画づくりからもうかがえる。例えば法廷のセット。ドラマや映画に登場する法廷のセットは、フォトジェニックで劇場のように立派なものが多い。しかし、本作に登場する法廷は、とことん簡素で殺風景。照明も実際の法廷に則して蛍光灯がメインに用いられている。
荒川正義と須藤莉子が所属する弁護士事務所の内観も外せない。デスクの上に積み重なったおびただしい数のファイル。筆者は実際の弁護士事務所を見たことがないが、おそらくホンモノの弁護士でも実際の弁護士事務所の風景だと勘違いするのではないかと思ってしまうくらい、細部に至るまで作り込まれている。
本作の細かな描写は、本当にキリがない。例えば取り調べの輸送車では、全員の手錠が1本の青い紐で繋がれており、外す時に勢いよく引っ張ったために紐の摩擦で手を痛めるという小ネタも散りばめられていたりする。
また、法廷のシーンでは、金子を執拗に追い詰める検事・新崎がペン回しをしていたり、裁判官がメガネをつけたり外したりを繰り返しており、法曹界のエリートたちの嫌味をさりげなく表現している。なお、カメラワークや編集に関しては正直なところ特筆すべき部分はないが、テンポの良い編集と短いシーンの連続により、難しい展開も分かりやすいように工夫されている。ここにも周防の細やかな気遣いが表れている。