東洋と西洋の化学反応〜脚本の魅力
本作には、監督であるウォシャウスキー姉妹の趣味嗜好が全編に散りばめられている。
一つ目は東洋思想。例えば、本作の世界観を構成する「仮想現実」には、「色即是空(色即ち是空なり)」というブッダの教えが垣間見える。
また、オラクルのもとにいる少年がネオの前でスプーンを曲げるシーンでは、少年は漫画がネオに「曲がるのはスプーンではなく自分自身だ」と諭す。このシーンは、禅問答の「非風非幡(風に非ず 幡に非ず、仁者が心動く)」を思わせる。
二つ目は聖書。これは、ネオが「救世主」と呼ばれていることからもよく分かるだろう(「neo」は「救世主」を示す「one」のアナグラムでもある)。ちなみに、人間の住む最後の街である「ザイオン」はエルサレムの丘シオンが、モーフィアスはギリシャ神話に登場する眠りの神モルペウスがもとになっている。
そして三つ目はジャパニメーション。例えば人々が電極を通してコンピュータと接続するシーンやサイバースペースへの侵入シーンなどには押井守監督の『攻殻機動隊』(1995年)からの影響が、アクションシーンでコンクリートが崩れるシーンなどには、大友克洋監督の『AKIRA』の影響が垣間見える。
このうち、とりわけ東洋思想とジャパニメーションを取り入れた作品は、ハリウッドでは他に例がなかった。本作には、この東洋と西洋の邂逅の痕跡が、しっかりと刻まれているのだ。