難産の末に生まれた黒澤映画の最高傑作ー演出の魅力
戦後の日本映画界に君臨し、『羅生門』(1950)『七人の侍』(1954)など、数々の名作を世に送り出してきた巨匠、黒澤明。そんな黒澤が晩年どうしても撮りたかった作品が、この『乱』だ。
原作は、シェイクスピアの三大悲劇のひとつ『リア王』と戦国大名、毛利元就の「三子教訓状」のエピソードで、脚本は、黒澤と小國英雄、井手雅人による共同執筆。主人公の一文字秀虎を『天国と地獄』(1963)など数々の黒澤作品に出演してきた仲代達矢が演じている。
映画史に残る名作が名を連ねる黒澤のフィルモグラフィの中でも、最高傑作との呼び声が高い本作。シェイクスピアに範をとった黒澤流の骨太のヒューマニズムや躍動感あふれる大迫力の合戦シーン、隅々までこだわった映像美など、黒澤作品の粋を集めた集大成的な作品に仕上がっている。
また、本作は当初、あまりのスケールの大きさから映像化が不可能と言われており、構想9年の末フランスの映画大手ゴーモンの出資によりようやく完成。制作費は最終的に日本映画最高額となる26億円に膨れ上がった。
なお、本作の5年前に公開された『影武者』は、本作と抱き合わせで作られた作品であり、時代設定を一緒にすることで小道具や衣装を流用し、『乱』の製作費を下げようとしたといわれている。
本作は、第58回アカデミー賞で監督賞をはじめとする4部門にノミネートされ、衣装デザイナーのワダ・エミが衣装デザイン賞を受賞。「世界のクロサワ」の名声をさらに高めることとなった。
なお、本作は、フランス側のプロデューサーであるセルジュ・シルベルマンの企画で、『ラ・ジュテ』(1962)で知られるクリス・マルケルがメイキングを撮影。1985年に『A.K.』(邦題『AK ドキュメント黒澤明』)として公開されている。気になった方はこちらもチェックしてもらいたい。