神の視点から描いた地獄絵図ー映像の魅力
元々、学生時代に画家を志していたという黒澤。その鋭敏な色彩感覚と豊かなイマジネーションは、カラー作品に移行した『どですかでん』を皮切りに、画面全体に横溢することになる。
本作も例外ではない。まず、冒頭の巻狩のシーンは、広大な草原の緑とワダ・エミによる色鮮やかな衣装が絶妙なコントラストをなし、思わず見惚れてしまうほどに美しいシーンに仕上がっている。
そして圧巻は、中盤の合戦シーンだ。12万人にも及ぶ甲冑姿のエキストラたちとその中にはためく無数の幟は、黒澤作品からしか摂取できないリアルなダイナミズムが感じられる。なお、撮影にあたって黒澤は、戦国時代のリアリティを追求するため、わざわざ背の低い高価なクォーターホース50頭を輸入して調教している。
しかし、本作の本当の魅力は合戦シーンではない。本作は、迫力の合戦絵巻である以前に、何より阿鼻叫喚の地獄絵図だ。中盤、武満徹のレクイエムに乗せて約10分にわたり延々と流れ続ける死屍累々の映像の数々は、多少オーバーな気もするが、戦場の悲惨さを伝えたいという黒澤の思いがこれでもかと伝わってくる。
なお、撮影はロケが大半で、ロケ地には姫路城や熊本城、御殿場、伊豆大島、名護屋城跡、飯田高原など、日本各地の名勝名跡が採用。三の城の落城シーンは、4億円をかけてわざわざ御殿場にオープンセットを作って実際に燃やし、マルチカメラで撮影したとのこと。絶対に失敗が許されない撮影だったことは想像に難くない。
また、撮影技術に関して言えば、本作は望遠レンズが多用されており、いわば人間の営みを俯瞰する神の視点がそのまま再現されている。
なお、一般的に望遠レンズは、背景をぼかし、被写体をくっきりと浮かび上がらせる効果があるが、本作では望遠にも関わらずパンフォーカス(画面の隅々までピントを合わせる技術)を行うという離れ業が駆使されている。こういった撮影へのこだわりは、資金が潤沢な往年のスタジオでないと許されない撮影と言えるだろう。