八重子役・東尾絢香の快演
各キャスト陣の演技はみな真に迫るものがあったが、中でも八重子を演じる東尾絢香に胸を打たれた。身体の震えといい、目の焦点の合わなさといい、男性を全身で拒否してしまう様子が見事だった。特筆すべきは終盤の講義室のシーンだ。
八重子の行動は、ひとりよがりな感情によるものであり、勝手な思い込みで踏み込むなと相手を激昂させてしまう。しかし、自分の視野の狭さを受け止めたうえで伝えたことは、決して無駄ではなかったと思う。
綺麗ごとかもしれないが、人と繋がるには、自分から話さないことには始まらないのだと思わせられる、説得力のある芝居だった。
結果的に、自分は違う立場の人間に己の事情をさらけ出し、なおかつ相手に伝えることができたのは、劇中では八重子だけだったように思う。八重子の存在が本作における希望だと筆者は感じた。
多様性を謳う現代において、このような作品が生まれることはある種の必然と言えるだろう。本作を傑作とするか、問題作と受け取るか、見た人の立場によって意見が分かれることは間違いない。が、本作の根底にあるテーマは”繋がり“である。
本作を一度見れば、否が応でも議題が湧き水のように溢れ出てくるはずだ。湧き出た感想を他人と共有することで、本作が、他人と繋がる一助になって欲しい。