宮崎駿の純文学〜演出の魅力
本作は、宮崎駿監督によるアニメーション作品。ストーリーのモチーフになったのは、零戦の設計者・堀越二郎の半生と堀辰雄による同名小説。宮崎駿自身がはじめて実在の人物に材を取った作品としても話題になった。
美しさを追い求める男と薄幸の女性との純愛であり、宮崎駿の純文学ー。本作を端的に表せば、そう言い表せるだろう。菜穂子が二郎に会いたい一心でサナトリウムを抜け出し、彼の飛行機の完成を見届けるシーンや、菜穂子が喀血したとの知らせを受け、二郎が涙を流しながら菜穂子の元へ向かうシーンに、感涙した観客も多いのではないだろうか。
しかし、二郎の描写には、疑問が残る点があるのも確かである。例えば、口では菜穂子に「美しい」といいながらも、どちらかといえば零戦のことで頭がいっぱい。挙げ句の果てには、結核である菜穂子の前でタバコを吸うなど、かなり無神経な行動が目立つ(現にタバコのシーンはかなりの抗議が寄せられたという)。
いや、宮崎ともあろう人物が、なんらかの意図なしにこういった人物描写をするはずがない。ならば彼はなぜこんな描写をしているのか。それは本作が「単なる男女の純愛物語」ではなく「美しいものだけを追求する男の物語」であり「宮崎駿のプライベートフィルム」であるからに他ならない。