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二郎が見た“美しい世界”〜映像の魅力

© 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK
© 2013 Studio GhibliNDHDMTK

CG嫌いで知られる宮崎。本作では、細部にまでこだわった手描きアニメーションならではの表現が存分に活かされている。

例えば冒頭の関東大震災のシーン。地震により大きく波打つ大地とひしめき合う避難民の描写は、まるで一つの生き物のよう。とりわけ人の群衆の描写は、今後戦争へと発展していく時代の流れを予感させる。

他にも二郎と菜穂子が再会する森の泉の湖面や、ドイツの工場地帯の壁に浮かび上がる人影は、まるで実写映画としか思えない出来。宮崎はじめとする作画スタッフの卓越した手腕が垣間見える。

ジブリ映画と言えば、『ハウルの動く城』(2004)におけるベーコンエッグ、『千と千尋の神隠し』(2001)の塩むすびなど、食事シーンも魅力の一つ。本作では、主人公・二郎が腹を空かせた子供に、餡子をカステラで挟んだお菓子・シベリアを差し出すシーンがある。

子供はシベリアを受け取らず、結局、二郎が同僚の本庄と一緒に食すことになるのだが、このシーンでは本庄によって二郎の偽善が批判される。二郎は飢えた子供を気にかける一方、莫大な予算をかけて、人を殺すためのマシーンである零戦づくりに励んでいるわけで、本庄は二郎のダブルスタンダードな行動に疑問を呈する。

従来のジブリ映画では幸福的に描かれることの多かった食事場面が、ここでは主人公の矛盾と葛藤を浮き彫りにするものとして描かれているのだ。

また、音の演出にも注目。特に冒頭の震災のシーンでは、不気味な地鳴りの音が人間の声で再現されており、「無機物に生命を吹き込む」という意味がアニメーションならではのリアリティが追求されている。

なお、これらの描写とは対照的に本作では、“美しくないもの”“正しくないもの”が極めて雑に描かれている点にも注目したい。例えば二郎のクライアントである海軍の軍人たちは、みな同じような顔立ちで、何を言っているかも聞き取れない。あくまで類型的な描写にとどまっている。

そういう意味で本作の作品世界は、菜穂子が描いていた油絵のように、二郎が近眼の目を通して見た“美しい世界”なのかもしれない。

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