“ほかの人には分からない”の意味とは~音楽の魅力
本作の音楽といえば、まずなにより印象的なのが荒井由美による『ひこうき雲』だろう。
宮崎駿が荒井のファンであったことと、映画のイメージとぴったり合っているという理由から選出された本曲。確かに空への憧れや若くしてこの世を去った人々への哀悼が歌い込まれており、確かに本作のモチーフと見事に合致している。
しかし、本作に登場するモチーフと映画内の登場人物の心情を短絡的に結びつけるのは慎むべきだろう。なぜならこの曲の歌詞には、次のような一節が登場するからである。
高いあの窓で あの子は死ぬ前も
空を見ていたの 今はわからない
ほかの人には わからない
私たち観客には、二郎や菜穂子の内面など、決して理解できない。死に際しての菜穂子の思いや二郎の空への憧れを分かった気になっていては決していけない。この歌には安直な読みを突っぱねるようなこういった主張が存在する。
なお、本作にはもう一曲、ある歌が登場する。軽井沢でカストルプがピアノを弾きながら歌った「Das Gibt’s Nur Einmal(ただ一度だけ)」という曲である。
今起きていることは夢なのだろう
今自分が何をしてるのかわからない
今日はすべてのおとぎ話が本当になる
今日は一つあることが明らかになる
ただ一度だけ二度とない
本当だとしたら素敵すぎる
奇跡のように私たちに黄金の輝きが天国から降り注ぐ
この曲は、ミュージカル映画『会議は踊る』の挿入曲として知られる曲であり、この映画では、ウィーン会議に出席するロシア皇帝アレクサンドル一世と町娘クリステルの淡い恋模様が描かれている。
身分違いの恋のため、破局が運命付けられるているアレクサンドル一世とクリステル。二郎と菜穂子のその後も予見するような、示唆に満ちた曲である。
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