複数の視点が交錯する中
全く表情を変えない大沢たかおの演技に注目
それから時が経ち、今回の事件が起こる。海江田が起こした暴走を、ただ止めるのではなく、そんな男に“国家元首”の資格などないと、深町は伝える。この場面は本作で最もスリリングなシーンとなっている。
深町の右腕にして「たつなみ」の副長、速水貴子(水川あさみ)、耳だけで海中の情報を把握し、艦長に伝える役割を果たすソナーマンの南波栄一(ユースケ・サンタマリア)らは、そんな深町を不安げに見守ることしかできない。彼ら“追う側”の視点から見ることで、「海江田の真の目的とは何か?」というサスペンス要素が加わっている。
さらに、日本政府側の、内閣官房長官・海原渉(江口洋介)や、防衛大臣・曽根崎仁美(夏川結衣)ら、様々な立場の人物の思惑も混ざり合い、そこに、事件の真相を報じようと躍起になるキャスターの市谷裕美(上戸彩)や、海江田と深町、双方の下で勤務した経験のある入江蒼士(中村倫也)の存在が、物語にさらなる奥行きを与えている。
とにかく大沢たかおが演じる、この海江田という男、全く表情を変えない。まるで能面のようだ。そして冷酷なまでに声音を変えず、部下に「発射」と命令する様子には不気味さすら感じる。事の重大さなど気にも留めないかのように全く動じない大沢の演技と、映画館だからこそ、その迫力が伝わる海中戦のシーンが、見事なコントラストを成している。
本作は、国土を持たないながらも核武装している国家を建国するという手法で、自らが目指す世界を作ろうとする道を選んだ男・海江田が、イチかバチかの賭けに出る物語でもある。その点、核によって世界の秩序を保たれている今の世界に一石を投じている。