「ご本人に『好きです』と伝えました」
光石研との出会いを語る
本作を観ると、「他者と真摯に向き合うこと」について、深く考えさせられる。私は、家族や友人のことをどれだけ知っているのだろう。他者と向き合う際に損得勘定を働かせてはいないだろうか。
この映画はあらゆる面で決めつけをしてはいない。主人公・末永は、定年を前にして、記憶が薄れていく症状に見舞われ、人生の岐路に立たされるようにも見れる。彼は近い将来、これまで付き合いのあったすべての人のことを忘れ、あらゆる人間関係から解放され、タイムリミットが迫る中、彼の感情は複雑に揺れ動いてるとも見れる。
「記憶がなくなってしまうことは、普通に考えると辛いことです。しかし、末永は『怖い』と思いつつ、心のどこかでホッとする気持ちもある。一方、忘却することを前向きに捉えているつもりでも、心のどこかで悲しんでもいる。白と黒に分けることができない、細かい感情の揺れ動きをこの映画で表現したいと思いました」
映画『あぜ道のダンディ』以来、12年ぶりの映画単独主演作となる光石研は、白黒で分けられない感情の機微を見事に表現。演技なのか素なのか判然としない、無防備な表情も自然にさらけ出している。そこから伺えるのは、同じ事務所(鈍牛倶楽部)に所属し、役者の後輩にあたる二ノ宮監督との強い信頼関係だ。
「光石さんと初めてお会いしたのは、豊島圭介監督『森山中教習所』(2016)で共演した時でした。光石さんが演じた役はヤクザの親分。僕は組の一番下っ端。まだ僕は今の自部署に所属する前でした。僕は昔から光石さんのファンだったので、映画の打ち上げの席でご本人に『好きです』と伝えました。それから同じ事務所に所属することになり、交流を深めていきました」