もっとも心地よいサイド・バイ・サイドの位置関係
隣に座る藤沢さんに自然体で接することができたこの一件以降、山添くんは少しずつ藤沢さん、さらには周囲の人物たちへの接し方を変化させていく。だが彼は、これまで避けてきた人たちと改めて正面から向き合おうとするわけではない。ある日彼の部屋を訪ねた千尋は、海外への転勤が決まったことを明かし、外で彼と話し合いたいと告げる。山添くんは了解して部屋を出るが、カメラは部屋の中にとどまる。その後外で正面から向き合った二人が交わしたと思しき緊張感に満ちた会話が画面に映ることはなく、それ以降千尋は映画から退場する。
一方で山添くんは、藤沢さんとは正面から見つめ合うことはないし、恋人になることもない。しかし、彼がPMSについて学びはじめ、二人が協力して移動式プラネタリウムの仕事に取り組むようになることと並行して、同じ方向を見つめる二人は、あたかも息のあった相棒同士のように、さまざまな場面で隣り合って一つのフレームに収まるようになっていく。
二人は会社での座席にとどまらず、山添くんの自宅で仕事に取り組む際も、藤沢さんがPMSの症状に対処するためにオフィス外の駐車場で洗車に没頭するときも、隣同士で同じ空間を共有する。気づけば二人は、会社からも横並びで歩いて帰宅するようになっている。どうやら、このサイド・バイ・サイドの位置関係こそが、二人にとってもっとも心地よいものであるようだ。
質の異なる苦境に陥った人たちにとって、思いをある程度共有してくれる人間が隣にいることがどれだけ支えとなるのか。このことは、実は映画の前半に別の形ですでに示されていた。周囲の近しい人間を亡くした人たちが集まるグリーフケアの会合では、車座になった参加者たちが、順番にほかの参加者たちに心情を共有し、その後は卓球のダブルスで汗を流す。彼らが共有するある種の気安さは、正面から向き合うわけではない位置関係と関連しているように見える。メンバーには、憲彦と栗田科学の社長である和夫(光石研)もいる。二人の会話から、この会で憲彦が和夫と知り合い、彼に山添くんを紹介したことが判明する。