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時代劇にもたらした革命—映像の魅力

新田の卯之助役の仲代達矢【Getty Images】
新田の卯之助役の仲代達矢Getty Images

本作には、従来の時代劇映画では見られない斬新な表現が散りばめられている。

例えば冒頭、三十郎が宿場町にやってくるシーンでは、人間の手首を咥えた野良犬が三十郎のもとに走ってくる。この映像だけでこの町が血塗られた町であることが一発で分かる秀逸なシーンだ。なお、手首を製作したのはヤクザ役で出演している大橋史典で、あまりのリアルさに黒澤が気持ち悪がったという。

そして、最も印象的なのが殺陣だろう。時代劇映画の殺陣といえば形式的なものがほとんどだった。しかし黒澤は、本作でリアリティあふれる本式の立ち回りを導入。殺陣氏の久世竜や剣術指導を務めた香取神道流の達人、杉野嘉男とともに時代劇の殺陣に革命をもたらした。

まずアクションについて。従来の時代劇の殺陣は舞踏を意識したものが多く、向かってくる敵を華麗に切り伏せるものがほとんどだった。しかし三船は本作で、ラグビー選手の動きを参考に自ら敵に向かっていきながら切り伏せるという立ち回りを行っている。

続いて音について。相手を切り伏せた時に「ズバッ」と音がする演出はすでに時代劇のあるあるだが、この演出は本作がはじめて。効果音担当の三縄一郎はさまざまな肉を切って実験したが、最終的に鶏肉を切ったり叩いたりして音を作ったという。

ちなみに本作の殺陣をよく見ると三十郎は1人につき2回切りつけている。これは、一度斬ったくらいではトドメを刺せないという黒澤の意向が反映されている。本作の殺陣が「見せ場としての殺陣」ではなく「人を殺すための殺陣」であることがこの演出からも分かる。

なお、黒澤は、殺陣のシーンであえて望遠レンズを使用することで迫力やスピード感を引き出している。特にラストの決闘シーンでは、セスナのプロペラ機を含む大量の扇風機で砂埃を巻き起こしており、西部劇よろしく迫力のあるシーンに仕上がっている。

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