ホーム » 投稿 » 海外映画 » レビュー » 映画『ニュー・シネマ・パラダイス』感涙のラストを解説。名音楽と名言が詰まった名作<あらすじ 考察 キャスト レビュー> » Page 6

失われた風景を求めて~映像の魅力

本作の映像の魅力といえば、やはり本編に登場する古今東西の名画のかずかずだろう。本作で登場する名画は約50本。ストーリーとリンクするように効果的に引用されている。

神父による映画の検閲のシーンで流れるのは、ジャン・ギャバン主演の『どん底』(1936年)。加えて、戦場での父親の死を知り、母親とともに遺族年金を受け取りに向かうシーンでがれきの中に『風と共に去りぬ』(1939)のポスターが張られている。

映画『風と共に去りぬ』のポスター
映画風と共に去りぬのポスターGetty Images

また、パラダイス座が火事になる直前にはイタリア映画『ヴィッジュの消防士たち』(1949年)が上映されている(主演のイタリアの喜劇王トトは、本作の主人公の名前の由来にもなっている)。

そして本作では、観客の描写にも触れないわけにはいかない。映画を見る観客の顔がとにかく素晴らしいのである。

チャップリンに笑い転げるトトたちや、同じ映画を10回も見て暗記したセリフを先に行ってしまう男、爆睡して周りの人にからかわれる男―。中には、映画の内容が気に入らず二階席から一階席に向かってつばを吐く男や、タバコを吸いまわす小学生、果ては映画の銃声に紛れて暗殺されてしまう男(!)など、正直今見るとマナー違反どころの騒ぎではない客も散見されるものの、どの客もみな生き生きと映画の世界を堪能している。

かつて、映画は大衆芸術であり、人々は映画と感情を共にした。本作には、そんな古き良き時代の失われた風景が描かれている。

1 2 3 4 5 6 7