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映画ファンへの“ラブレター”〜演出の魅力

ジュゼッペ・トルナトーレ監督(AFI FEST 2014より)
ジュゼッペトルナトーレ監督AFI FEST 2014よりGetty Images

本作は『シチリア! シチリア!』や『海の上のピアニスト』で知られるイタリアの映画監督ジュゼッペ・トルナトーレによる長編2作目。主演のサルヴァトーレ(トト)をジャック・ペランが、アルフレードをフィリップ・ノワレが演じている。

なお、本作はカンヌ国際映画祭の審査員グランプリやアカデミー賞の外国語映画賞などの数々の賞を受賞し、大きな話題を呼んだ。

「感動映画ベスト100」、「好きな映画ベスト10」などのランキングでは必ず上位にランクインする本作。日本では、1989年12月にシネスイッチ銀座の1館のみで封切られたものの、その後40週連続のロングラン上映となり、動員数約27万人、売上げ3億6900万円という驚くべき興行成績を記録。外国映画の名作を特集する「午前十時の映画祭」では、定番の人気コンテンツとして親しまれている。

なぜ本作は、公開から30年以上を経てなお多くの映画ファンの人気を集めているのか。ヒントとなるのが、映画評論家の淀川長治の次の言葉である。

“これは私のために作られたような映画なんですね。(中略)この監督がいかに映画好きか。映画への愛情が溢れていますね”
(淀川長治『淀川長治 究極の映画ベスト100』より)

私のために作られたような映画―。おそらく映画ファンの中には、淀川と同じように、本作の主人公・トトにかつての自分を重ねる人も多いことだろう。まさに本作は、世界中の映画ファンに向けられた“ラブレター”なのである。

また、本作には上映時間の異なる3つのバージョンが存在する。1988年に本国イタリアで封切られたバーションは155分版(イタリア国内版)。155分版の不評を受け、トルナトーレ監督がフィルムにはさみを入れ、主人公とヒロインのラブシーンや後日談をカットした124分版(国際版)。公開から14年後に、カットしたシーンを復活させて再構成した170分版(完全版)である。ここでは124分版をレビューの対象とする。

映画館「パラダイス座」の栄枯盛衰を丹念に描く国際版に対し、完全版では主人公・サルヴァトーレの人生を描くことにフォーカスしており、青年時代の恋や、大人になり映画監督として大成した後の物語がたっぷり描かれる。国際版のメインテーマは、サルヴァトーレとアルフレードの心温まる交流だが、完全版では主人公の人生を彩る複数のエピソードの一つといった形で、扱いが小さくなっている。

映画が大衆の夢を体現していた幸福な時代への郷愁をセンチメンタルに描いた124分版と、映画好きの青年の人生をメロドラマチックに描いた170分版では好みが分かれるだろう。170分版は良く出来たメロドラマではあるが、”映画ファンに向けたラブレター”という色合いは薄くなっており、もし1998年に世を去った淀川長治が完全版を観ていたら評価がひっくり返ったかもしれない、と想像してみるのも一興だ。

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