「強さ」をめぐるドラマ〜脚本の魅力
原作は1915年生まれのアメリカの小説家、トマス・サヴェージが1967年に発表した同名ノベル。原作ではキルスティン・ダンスト演じるローズの元夫が自殺するところから物語が始まるが、映画版ではフィルとジョージの兄弟のエピソードが冒頭に置かれている。登場人物の心理が丁寧に説明される原作小説に対し、映画版ではセリフは極力抑えられ、観客の想像力を刺激する作りとなっている。
あらすじからも分かる通り、本作は主に二つの軸を中心に展開する。
初めに描かれるのはフィルvsジョージ・ローズの対立である。主人公フィルは、西部のカウボーイらしく粗野で「男らしい」人物として描かれており、女性であるローズに容赦ない言葉を浴びせることもままある(しかし、彼はイェール大卒のインテリでもある)。
一方ジョージは生真面目で地味だが、ビジネスマンらしく女性にも寛容で優しい。前半部はフィルによるジョージへの苛立ちやローズへの憎しみを中心に展開する。
しかし、フィルの牧場にローズの息子であるピーターがやってくると状況は一転、今度はフィルの「男らしさ」の裏に秘められた「秘密」を巡って物語が展開する。大学で医学を学ぶピーターはペーパーフラワー作りが趣味で、マッチョなフィルが最も毛嫌いするタイプの人物である。しかし実はそれが「同族嫌悪」であったことがわかると、物語は一気に加速していく。
本作の前半部は正直ドラマ的に凡庸な部分があり、やや間延びしている感も否めない。しかし後半部になると心理的な駆け引きが物語の軸となり、一気にカンピオンの映画らしいスリリングな展開になる。
そして終盤、ピーターは、ローズをフィルから守るためフィルを罠にはめることになる。ここで用いられるのが、「生皮」や「手袋」、「ロープ」といった接触的で官能性を秘めた小道具である。
さて、ピーターは、自身の父についてフィルに次のように語っている。「最期までね、首つって死んだ、死体は僕が下した。父は僕が冷たいと、強すぎるって」
強すぎる…。フィルは彼の言葉に耳を疑ったたが、強さを装う彼には、ピーターの本当の強さが理解できなかったのかもしれない。