心情を雄弁に語る光と色に注目〜映像の魅力
本作の撮影監督を務めるのは『レディ・マクベス』(2016年)や『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2021年)の撮影を務めたアリ・ウェグナー。彼女は本作で、女性撮影監督としては史上二人目となるアカデミー賞撮影賞へのノミネートを果たしている。以下では彼女の生み出した映像の特徴について触れたい。
第一に、本作の映像の特徴といえば、なんといっても本作の舞台である「モンタナ州」の雄大な自然だろう。しかし、実をいえば本作のロケ地は「モンタナ州」ではなく、ニュージーランドとオーストラリアである。西部劇といえばアメリカ西部の荒涼とした大地が印象的だが、本作の場合は少し湿っていて暗い印象があり不穏な雰囲気を引き立てている。
なお、一般的な西部劇とは異なる点として、色遣いが効果的に使われている点についても述べたい。本作の前半部では、一般的な西部劇同様、枯れ草や砂埃の黄土色や馬の体の濃い茶色といったブラウン系の色が基調に使われている。しかし、後半部ではローズが着ている服の薄いピンク色やフィルが行水するシーンで生い茂る草の緑が目立ち始める。色彩がフィルやローズの感情を雄弁に語り始めるのである。
また、フィルといえば、光と影の演出によるにも注目。例えば序盤、逆光の中、ピーターお手製のペーパーフラワーに火を放つ威厳たっぷりのフィル。そして森の中で光をたっぷりに浴びながら全裸で行水するフィル。そして終盤、納屋の暗がりの中で闇に包まれるフィル…。光が彼にさまざまな角度から当てられることで、その複雑なパーソナリティが浮き彫りになっていく。
なお、カンピオンは、ウェグナーの映像について「単に美しいショットを撮るだけではなく、美しく真正性を感じさせる映像を撮れる」と述べている。ウェグナーは、光と色を介して、作品には見えない真実を照らし出すのである。