ザ・マスター 映像の魅力
本作では、通常の映画撮影フォーマットである35ミリフィルムではなく、より高解像度の65ミリフィルムを使用。同様のフォーマットで撮影されているクエンティン・タランティーノ『ヘイトフル・エイト』(2015)では、雪山の壮大な景色が迫力たっぷりに描かれるのに対し、本作は自然描写ではなく、登場人物の肌のキメや瞳の動きを克明なタッチで映し出すために65ミリフィルムが活用されている。
また、スチールカメラマンを生業とする主人公・フレディのキャラクター設定にのっとって、1950年代の写真を参考にした画面作りがなされており、ノスタルジックなムードが強く押し出されている。
65ミリフィルムカメラは35ミリに比べて格段に大きく重量感があるため、他のPTA作品で見られるような、登場人物の背中を追っていく軽快なカメラワークは鳴りを潜め、一枚の写真として完成された、揺るぎない構図のカットが丁寧に積み重ねられている。
カメラを担当したミハイ・マライメア・Jrは、ルーマニア出身の撮影監督であり、巨匠・フランシス・フォード・コッポラの秘蔵っ子である。闇を活かした深みのある照明表現、観る者を驚かせる大胆なアングルからのショットに定評があり、その手腕はPTA作品初参加となった本作でも遺憾なく発揮されている。
被写体の顔を平坦に映すことはせず、影を活かして立体的な印象を作り出すミハイ・マライメア・Jrのカメラは、登場人物の内面を陰影豊かに描写せんとするPTAの作風と相性が良く、撮影技法だけが浮き上がるのではなく、演出と一体化した充実の画面を見事に作り上げている。