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心の声を重ねることで狂気を表現する〜脚本の魅力

映画『地獄の黙示録』の1シーン。このシーンは様々な映画でオマージュとして使用されている
映画地獄の黙示録の1シーンこのシーンは様々な映画でオマージュとして使用されているGetty Images

原作となったのは、イギリスの小説家・ジョゼフ・コンラッドの代表作『闇の奥』(1899年に発表)。船乗りであったコンラッドの実体験で得たリアルな筆致が冴える同小説の舞台は、アフリカ中部に位置するコンゴ川である。

原作で描かれる時代は、欧米諸国が植民地支配を強めていった19世紀後半だが、脚本を担当したジョン・ミリアスとコッポラは、舞台を資本主義と社会主義の代理戦争下のベトナムに変更。長く続く戦争で人間性を失いつつある主人公・ウィラード大尉が、反逆者となったカーツ大佐を抹殺するために、ジャングルの奥地へと足を踏み入れる物語にアレンジした。ちなみに、ラストでウィラードが心の声で連呼する「ザ・ホラー(恐怖だ)」というセリフは、原作のラストにも登場する。

筋立てだけ見るとジャングルを舞台にした冒険アクション映画のようだ。しかし、第二次世界大戦とは異なり、巨悪に立ち向かうといった構図ではなく、主人公が属するアメリカ軍が圧倒的な武力で現地住民および敵のゲリラ兵を一方的に制圧する様子が描かれる。

そのため、戦争映画ならではのカタルシスは皆無。終わりなき戦いと、大義名分なき殺戮に従事して精神を荒廃させた兵士たちの気怠い雰囲気と心象風景を描くことに焦点が当てられている。

戦争の狂気と自己発見の旅を描く本作の物語の特色を語る上で、ナレーションの効果に触れないわけにはいかないだろう。カーツ大佐暗殺の命令を受けた主人公は、カーツの経歴や遺した手紙をひもときながら、精神面においても彼に接近していく。

本作の物語は、“ミイラ取りがミイラになる”(人を捜しに行った者がそのまま帰ってこないで捜される立場になる)という格言で言い表せるものだが、他者が書いた謎めいたテクストを心の声で読み上げる、という描写を丹念に積み重ねることで、一人の男が狂気に飲み込まれていく過程を息を呑むほどリアルに表現している。

ナレーション台本を書いたのは、アメリカのノンフィクション作家、従軍記者、脚本家であるマイケル・ハー。彼はベトナム戦争ルポの決定版として名高い『ディスパッチズ―ヴェトナム特電』(1977)の作者である。同著はコッポラとミリアスがシナリオを執筆する上で最重要文献に位置付けたもの。ちなみに、ハーは後年、スタンリー・キューブリックによるベトナム戦争映画『フルメタル・ジャケット』(1987)の脚本づくりにも参加している。

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