サーフィン好きのキルゴア大佐が体現する狂気〜演技の魅力
実は、本作の企画の立案者はコッポラではなく、ジョージ・ルーカスとジョン・ミリアスの二人。ベトナム戦争が行われている最中の1970年代前半に製作が検討されるもペンディング。数年後に企画が動き始めるもルーカスは『スターウォーズ』(1977)の制作に着手しており、コッポラの手に渡った。
交代したのは監督だけに止まらない。主役のウィラード大尉は、はじめ個性派俳優のハーヴェイ・カイテルがキャスティングされていたが、2週間ほど撮影が進んだ段階であえなく降板。
代わりにキャスティングされたのが、テレンス・マリック監督『地獄の逃避行』(1973)で無軌道な若者を演じ、注目を集めたマーティン・シーンである。本作では『地獄の逃避行』で見られた溌剌(はつらつ)としたアクションは鳴りを潜め、虚ろな瞳と鈍重な身のこなしで気怠い作品風土と見事に一体化している。
ウィラードの標的となるカーツ大佐を演じるのは、コッポラとは『ゴッドファーザー』に続くタッグとなる名優マーロン・ブランド。登場シーンは全体のほんの一部に過ぎないが、ウィラードを闇の奥に誘う存在として素晴らしいパフォーマンスを披露している。
カーツの初登場シーンにも注目したい。その存在が映画で初めて示されるのは、映像としてではなく、録音テープに吹き込まれた声である。物語が進むにつれてウィラードはカーツの手紙を読むことによって彼に同一化していくが、最初にカーツの声が示されることによって、ウィラードおよび観客は、手紙に書かれた言葉から彼の声を想起し、手紙を読み上げるウィラードの心の声にカーツの声を重ねる。
スクリーンに姿を見せる時間が少ないのにもかかわらず、どのシーンにもカーツの存在がしっかりと感じられるのは、観る者の耳にこびりつくマーロン・ブランドの声の忘れがたい魅力によるところが大きいだろう。
マーロン・ブランドと同じく、『ゴッドファーザー』の出演者であるロバート・デュバルは、空軍騎兵隊を率いるサーフィン好きの軍人・キルゴア中佐を怪演。サーフィンをするためにベトナムの農村を焼き払うキルゴアは、倫理観とともに恐怖心もとっくに失ってしまっているのか、敵の砲弾が近くに着弾しても気にする素振りをみせず、海面のコンディションチェックに熱を上げる姿は戦争の狂気を体現している。