光の魔術師が映しとる戦場の真実〜映像の魅力
戦場の様子を俯瞰で捉えたスケールの大きい映像から、鮮烈な光と影でキャラクターの内面を浮き彫りにするクローズアップに至るまで、すべてのカットに美が宿っている。撮影監督を務めたのは、イタリアが誇る巨匠、ベルナルド・ベルトルッチ(1941~2018)とのタッグで数々の名作をものにした、光の魔術師ことヴィットリオ・ストラーロ。
序盤の激しい戦闘シーンでは、小刻みに揺れる移動撮影で、死と隣り合わせで任務に励む兵士たちの決死のアクションを捉える。被写界深度(ピントが当たっている範囲)は深く、画面手前のアクションを捉えると同時に、背景のアクション(飛び交うヘリコプターの運動、燃え上がる炎、草木の揺れ)も克明に映し取る。それによって、人間ドラマに回収されることない、リアルな戦場描写を実現している。
光と闇の表現もまた、目まいをもたらすほど強烈だ。カーツが統治する村にたどり着いたウィラードが、初めてカーツと対面するシーンを見てみよう。横になって動けないウィラードが視線を外に向けると、暗闇の中、天井から差し込む一筋の強い光に照らされたカーツの姿が一瞬だけ映る。その後、舞台は黄金の光が差し込むカーツの寝室に移行するが、ここでもカーツの姿は逆光のためよく見えない。
カーツを映したカットには常に暗闇がともなっており、光に照らされた部分は一部にとどまる。それはカーツが抱える闇の深さを表現すると同時に、闇に引き付けられていくウィラードの心の動きも表現し、物語に奥行きを与えている。
フォトジェニックであるだけではない、作品の世界観と一致した本作の映像表現は、戦争映画という枠組みを超えて、映画史全体においても稀にみる完成度を誇っている。
ちなみにストラーロは本作でアカデミー最優秀撮影賞を初受賞。その後、ウォーレン・ベイティ監督『レッズ』(1981)、ベルトルッチとのコンビ作『ラストエンペラー』でも同賞を獲得している。