「ワルキューレの騎行」が表現する戦争の醜悪さ〜音楽の魅力
演出面、演技面、撮影面とそれぞれ強い個性で観る者を魅了する本作だが、音楽面はより輪をかけて個性的である。ナパーム弾がベトナムの平原を焼き払うファーストカットに被さるのは、アメリカのロックバンド・ドアーズの楽曲「ジ・エンド」。
ロック史に残る名盤『ハートに火をつけて』の最後に収録された同曲は10分にもおよび、近親相姦や父殺しを連想させる謎めいた歌詞が印象的だ。「ジ・エンド」は冒頭のみならず、ウィラードがカーツを牛刀で惨殺するクライマックスでも使用されており、主人公の行為に奥深い意味を付与している。
カーツを殺害した後、ウィラードがカーツに服従していた農民たちの前に出ると、農民たちは武器を捨て、彼に服従するような意志を見せる。ウィラードはカーツを殺害することで彼の影響圏から抜け出すどころか、彼になり変わるのだ。しかし、彼は象徴としての父であるカーツに代わって村に君臨することはせず、仲間の手を引いて、ジャングルの奥地、闇の奥へと船を進めていく。
本作で印象的な使われ方をするロックソングと言えば、ローリーング・ストーンズの代表曲「Satisfaction(サティスファクション)」も挙げられる。ラジオから流れてくる同曲に合わせて、兵士たちが腰をくねらせ、水上スキーを楽しむシーンは、緊張感が持続する劇中において、緩和の機能を見事に果たしている。ちなみにこのシーンは、劇場公開版では前半に位置しているが、特別完全版、ファイナルカット版では比較的終盤に登場する。
クラシック音楽の使い方も強烈だ。キルゴア中佐が指揮する航空部隊が、リヒャルト・ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を爆音で流しながら、敵が潜むベトナムの村落に容赦なく爆弾を落としていくシーンは、映画史上最も有名なクラシック音楽の使用例といっても過言ではないだろう。
ちなみに、「ワルキューレの騎行」を戦意高揚音楽として使う志向は、コッポラのオリジナルではなく、第二次世界大戦中から各国でよく見られたもの。とりわけ、ナチスドイツを率いたアドルフ・ヒトラーはプロバガンダ映画に同曲を好んで使っていたことが知られている。
音楽にクレジットされているコッポラと父・カーマイン・コッポラは、上記の史実を踏まえて、戦意高揚音楽の定番であり、紋切り型である「ワルキューレの騎行」を大胆な形でフィーチャーすることで、戦争のグロテスクさを効果的に表現している。
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