爽やかさを感じさせる結末…。映画『アルマゲドン・タイム』、アンソニー・ホプキンスの名演技に注目。忖度なしガチレビュー
人種差別を巡る白人と黒人の少年の成長を描いた、ジェームズ・グレイ監督の反自叙伝的映画『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』が、5月12日より公開中だ。今回は、主人公・ポールの祖父を演じたアンソニー・ホプキンスの芝居や視覚的な演出に着目したレビューをお届けする。(文・冨塚亮平)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
【著者プロフィール:冨塚亮平】
アメリカ文学/文化研究。神奈川大学外国語学部助教。『キネマ旬報』にて外国映画星取レビュー連載中。
「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」プログラム、ユリイカ、図書新聞、新潮、精神看護、三田評論などに寄稿。共編著『『ドライブ・マイ・カー』論』(慶應大学出版会)、『少年と自転車』論を寄稿した『ダルデンヌ兄弟 社会をまなざす映画作家』(neoneo編集室)が発売中。
ジェームズ・グレイ初となる半自伝的映画
舞台は1980年のニューヨーク、クイーンズ区。小学6年生になったユダヤ系の主人公ポール・グラフ(バンクス・レペタ)は、同じクラスになったアフリカ系の少年ジョニー(ジェイリン・ウェッブ)と共に、担任の教師に目をつけられる。
いたずら好きの二人は、宇宙と音楽という共通の趣味について話すなかですぐに打ち解けるが、当時のアメリカで人種も階級も異なる少年たちが友情を育むことは、決して簡単ではなく…。
ジェームズ・グレイの八本目の長編監督作となる最新作『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』は、初となる半自伝的映画だ。
作中のポールの家庭環境や体験は、ほぼグレイ自身のそれと重なるものだという。グレイは、幼少期の経験を直接反映させたきわめて個人的な物語を、最終的にドナルド・レーガンが勝利する1980年の大統領選挙を背景として語ることで、当時のアメリカに対する自らの認識を作中に埋め込んだ。
ポールは、ともにユダヤ系移民の子であったエンジニアの父と教師の母のもと、中流階級の家庭に生まれた。彼は、しばしば親戚を含めて集まる大家族のなかで、特に祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)と強い信頼関係を結んで育った。
一方、下層階級で育ったジョニーは、アルツハイマー病を患う祖母と二人で暮らし、大人に頼ることなく実質的に一人で生きてきた。
映画はまず、この対照的と言ってよい出自を持った二人が、共通の趣味を接点として次第に関係を深めていく様を丁寧に追う。
その上で、当時の社会や家庭で共有されていた偏見が、いかに二人を分断しその友情を引き裂いていったのかを、ストーリーにとどまらないさまざまな角度から観客に示そうとする。