ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 爽やかさを感じさせる結末…。映画『アルマゲドン・タイム』、アンソニー・ホプキンスの名演技に注目。忖度なしガチレビュー » Page 2

柵や扉、窓といった舞台装置を駆使した演出に注目

C2022 Focus Features LLC

 そもそも、はじめにポールとジョニーが仲良くなるきっかけとなったのは、担任に揃って黒板の前に立たされたからだ。もちろん、その場で一緒に悪ふざけをして教師を怒らせた共犯意識や、その後趣味について語り合ったことが、二人を友人にする直接的なきっかけとなったのは間違いない。

 だが、他の生徒たちから離れて二人だけで同じ空間を共有することができなければ、おそらく彼らはともにふざけ合い、語り合うことすらもできなかったのではないか。

 映画が進むにつれその思いが強まるのは、作中で二人の関係を阻む障害が、いずれも柵や扉、窓といった舞台装置によって視覚的に表現され続けるからだ。

 たとえば、グッゲンハイム美術館への遠足場面では、はじめはクラスメイトたちと行動を共にしていた二人が、やがて美術館を抜け出し二人だけで街へと繰り出す。

 公園を走り抜け、ゲームに興じながらシュガーヒル・ギャングのライブに一緒に行くことを約束した二人は、帰りの電車で宇宙の話題で大いに盛り上がる。

 二人の友情は、彼らがクラスメイトから離れて隣り合い、同じフレームに収まっているからこそ深まる。

 しかし、宇宙飛行士になりたいと素朴な夢を語ったジョニーは、同じ車両に居合わせた年長のアフリカ系の若者に悪態をつかれてしまう。

 少年の夢すらも、差別や偏見と決して無縁ではない。この厳しい認識を突きつけられたジョニーは、無言で席を立つと、隣の車両へと移る。慌ててポールは彼を追うが、ジョニーは次の停車駅で電車から降りてしまい、二人は再び扉によって隔てられる。

 この一連のシークエンスで仄めかされた不安は、一旦は解消される。再び学校で怒られ、絵筆を共に洗わされることになった二人は、共にトイレの個室にこもってマリファナを吸う。再び二人は扉の内側で同じ空間と秘密を共有する。

 ところが、その場面を先生に見つかり、ポールの両親が学校に呼び出されたことで、二人の道は本格的にすれ違いはじめる。学校の環境を問題視した家族から、ポールは兄の通う富裕層向けの私立校に転校させられてしまうのだ。

 これ以降彼は、トランプ一族が講演に訪れる、レーガンを支持する人種差別主義者たちが集まる新たな環境に適応していくことを余儀なくされる。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!