アンソニー・ホプキンスの佇まいと語り口に注目
ある日の昼休み、校庭にいるポールは、わざわざ彼を訪ねてきてくれたものの校内には入れないジョニーと、柵越しに密かに言葉を交わす。
差別的なクラスメイトたちに二人の仲を悟られないよう、当日のライブには行けないとジョニーを冷たく突き放してしまう彼の態度と共鳴するように、ここでは二人の間を隔てる柵が大きな存在感を放つ。
しかしポールは、尊敬する祖父アーロンとの交流のなかで、自らとジョニーの間を引き裂く障害を再び乗り越える方法を模索していく。
アーロンが強調し、グレイも『エヴァの告白』(2013)などで取り上げてきたように、国境や海といった境界、障害を越えてエリス島にやってきたユダヤ系の移民たちもまた、アフリカ系と同様に、人種的マイノリティとして激しい差別を受けてきた。
名前を変え、身分を偽り、なんとか苦境を生き抜いてきたアーロンは、死期を悟ると最後に公園で孫と改めて語り合おうとする。
質の異なる苦しみへの共感的な態度を保ち続けるようにポールを勇気づける、ここでのアーロンの優しくも力強い言葉は、たとえばスパイク・リーも『ブラック・クランズマン』(2018)で取り上げたような、ユダヤ系白人とアフリカ系黒人の人種を超えた連帯を諦めないよう、悩める孫を鼓舞する。
多方面に配慮しつつリベラルな価値観を称揚する、いかにも模範的なアーロンの台詞そのものは、やや図式的で作為を感じさせるものではある。
だが、あらゆる境界から解き放たれたような開けた公園の眺望と、アンソニー・ホプキンスの佇まいと語り口によって、少なくともその言葉が劇中でポールの背中を押す力を持っていることは十分な説得力とともに伝わってくる。
劇中でも随一の美しいロングショットで捉えられる、空に舞い上がる宇宙船の模型に導かれるように、ここからポールは、同じく宇宙を夢見るジョニーともう一度行動を共にすることとなる。