グロリアとフィルの曖昧な関係〜配役の魅力
本作の配役といえば、なんといってもグロリア役のジーナ・ローランズとフィル・ドーン役のジョン・アダムズに尽きる。
二人の道行きといえば、普通は男同士のバディや美男美女を配役するのが定石だろう。しかし、本作の主人公は「強烈なオーラを放つ謎のおばさん」と「ませた子ども」なのだ。このあたりの配役からして非凡と言わざるを得ない。
アダムスがグロリアを「ママでもパパでも親友でも恋人でもある」と称しているように、二人の関係が終始曖昧なままなのもポイントだ。コロコロと変わっていく二人の関係性に、なんともいえない粋さが感じられる。
また、フィル役のジョン・アダムズの演技も必見。グロリアを「ブタ」「ママの方がきれいだった」と罵倒しつつも、ときに彼女に思いを寄せる彼の姿はなんともいじらしく、ラスト、グロリアと彼が奇跡の再会を果たすシーンには、思わず微笑みがこぼれてしまうこと請け合いだ。
作中、グロリアはフィルについて「一緒に寝た男では最高ね」というセリフを吐いているが(これも映画史に残る名ゼリフだ)、グロリアにとっては、これ以上ない「運命のパートナー」と言えるだろう。
ちなみに、グロリアはなぜ自らの命を賭してまでフィルを守ろうとするのか、本作では答えが明示されていない。母性の目覚めによるものと言えば聞こえはいいかもしれないが、単なる愛を超えた人間の“業”のようなものが感じられるのは筆者だけだろうか。